第36話

「五時になったら島内放送が鳴るんだけど、それが鳴り終わるまでに絵から出てこないと、戻れなくなる。あっ、あと五分だね」


 葵鈴が懐中時計を見て言った。


「入ってみたい」

 僕は言った。


「えっでも五分で戻らないと、絵の世界に閉じ込められて出てこられなくなるんだよ」


「それでも行ってみたいんだ。『自分に本当に大切なもの』が見つかるかもしれないし」


 記憶の固執……そこには何があるのか?


「じゃあ、三分だけだよ」


 葵鈴が心配そうに言った。


 葵鈴が絵をコンコンコンと三回ノックした。


 その途端、絵が一瞬光に包まれ、あまりの眩しさに僕は目を閉じた。


 目を開くと、絵には遠くまで奥行きができていた。


「さっ、急いで」


 葵鈴が絵の中に一歩踏み出す。僕も慌てて葵鈴に続いた。


 

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