第34話
「じゃ、あそこ行ってみよう」
いきなり葵鈴が自転車のスピードを上げた。
危うくバランスを崩して落ちるところだった。
幼稚園、小学校、中学校を左手に見ながら、空を行く。
「しっかりつかまっててね!」
中学校と洞窟の間に来たところで、葵鈴が急降下を始めた。
アシやシダなどの熱帯植物の森の上を、飛ぶように走る……って最初から飛んでたか。風が全身を通り抜ける爽快感。
内臓が浮き上がるようなワクワクするような感覚。乗ったことはないけど、ジェットコースターに乗ったらこんな感じなのだろうか?
大きな森を抜けると、葵鈴は徐々にスピードを落としていった。
突然目の前に広大な花畑が現れた。
何千、何万本というベビーブルーのハイビスカスの花をつけた木が、わずかに風に吹かれて揺れている。
なんて美しい光景だろう。水色のハイビスカスなんて初めて見た。
自転車を置いて、ハイビスカス畑の中を葵鈴が歩く。僕も慌てて葵鈴の後に続く。
僕の背よりも高いハイビスカスの木。
百八十センチくらいはあるだろうか。
畑の真ん中にはポツンと小高い丘があり、そこには銀色の立派な額縁に入った、大きな油絵が飾ってあった。
なぜに、なぜに、畑のど真ん中に絵が……?
雨の日は大丈夫なのだろうか?
そして、異彩を放つあの絵。
絵は家電量販店で売っている、一番大きなテレビくらいの大きさだろうか。
チーズみたいに溶けた三つの時計と、ギョウザのようなふにゃっとした白い何かが描かれている。
1931年に「偏執狂的批判的方法」で描かれた作品だ。
今はニューヨーク近代美術館にあるはずだけど、そもそもかなり小さい絵だったよな……。本当になんなんだろう、この島。謎すぎる。
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