第33話
再び、葵鈴が漕ぐ空飛ぶ自転車の、後ろに乗せられている。
「慣れ」と「開き直り」とは人間の能力の中でもすごいものの一つだと思った。
さっきまであれほど怖かった高さが、少しづつ怖くなくなってきているのだから不思議だ。
そして『自分に本当に大切なもの』は当然と言えば当然だが、「高所恐怖症の克服」ではないらしい。
普通に自転車をこぐ要領で、葵鈴は自転車の向きをくるりとかえ、島の方向を向いた。島の全体が見渡せた。
葵鈴はゆっくりと自転車を走らせながら、説明してくれる。
「手前にあるのが、海の見える図書館。『魔女の品格』と『怪獣は見た目が9割』が、最近の予約ランキング一位。右手が幼稚園と小学校と中学校。今葵鈴は小学校五年生なんだ。エルピス島に高校はないから、高校からは本島まで行かなきゃならないの」
「本島もあるんだ……」
「学校へは行きたいひとがいく。老若男女いろんなひとがいろんな勉強してる。 本だけはたくさんあるから、基本的には独学、自習。わからないところはお互いに教えあったりするの」
「中学校の奥がクリスタルの洞窟。明日時間があったら行ってみよう。遠くに見えるのがさっき通り過ぎた海中ホテル」
エルピス島は大きな島ではないが、学校や病院もあるし豊かな自然に囲まれて、住みやすそうな島だった。
なにより温かい雰囲気に包まれており、葵鈴がこういう島で暮らしているのならばと、少し安心した。
島のほとんどがヤシやシダなどの深いジャングルに覆われているのが少し気になったが、それだけ自然豊かということなのだろう。
島は良く見ると、ところどころに巨大なヤカンや、魚の頭などのわけのわからない鮮やかなオブジェがある。
一体だれが作ったのだろう。本当に不思議な島だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます