第32話

「お兄ちゃん、目を開けて」


 目を開けると、葵鈴はゆっくりと、美しい飾りをつけた骨貝様の周りを旋回していた。


 地上三メートルほどだろうか。先ほどまでの高さはないが、やはりちょっと怖い。


「骨貝様のてっぺんに、星を置いて」


 葵鈴が自転車を漕ぎ、僕がツリーのてっぺんに飾る星形ヒトデを持っているわけで、八年前とは逆パターンだ。


 ツリーに飾る星を持って僕に抱っこされていた小さな葵鈴が、ずいぶんと逞しくなったものだ。


 自転車が宙で止まると、骨貝のてっぺんのとんがった場所の手前に、いくつか太い突起があるのが見えた。


 骨貝を壊しちゃったらどうしよう。


 どうかうまくいきますように。


 てっぺんと突起の間に、慎重にヒトデを置く。


「かんせい!」

 葵鈴が言った。


「かんせい!」

 僕も言った。


 葵鈴と僕は目が合い、二人で自転車の上で笑い出す。


 そのうちに二人ともツボに入ったのか、大笑いしてしまう。


 自転車がバランスを崩し骨貝にぶつかりそうになり、危うく倒してしまうところだった。


 危なかった……。自転車はビーチに何度もバウンドしながら不時着。


「ごっつきれいに飾れたやんけ~。バイトまでまだ時間あるから、宙弥くんに島を案内してあげたらええ」

 信介さんが近づいてきて言った。


「おおきに! そうしまひょ! 鍵が手に入るかもしれないし」

 葵鈴が自転車を起こしながら叫んだ。


「ただし、森には絶対に入らないようにするんやで」

 信介さんの笑顔が、少し強張ったように感じた。

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