第31話

 ツリーの真ん中から上は、下駄を履いた葵鈴が数メートルの高さに飛びながら、残りのオーナメントを引っ掛けていった。


 耳につけた赤いハイビスカスと同じ色の鼻緒でかわいいけど、なぜ下駄でそんなに跳躍できるのか謎だった。


 そして最後に葵鈴の顔ほどの大きさのヒトデを、骨貝のてっぺんに飾ることになった。


 ヒトデはやはり星形で、シグナルレッドの鮮やかな赤色だった。乾燥しているはずなのに、思った以上に重い。


「てっぺんの星は……自転車で飾るかな」葵鈴がまた不思議な発言をした。


「自転車?」


「星は持ってきて」


 骨貝様のすぐ後ろのジャングルを抜けると、自転車置き場があった。


 トタン屋根の下に、塗装がところどころ剥げた勿忘草(わすれなぐさ)色の自転車が、何台か置いてある。


「これは共同の自転車なの。乗りたいときにいつでも乗っていいの。これでいいか」葵鈴が一台の自転車を取り出した。


「後ろに乗って!」なんだか少し壊れそうな自転車に跨りながら、葵鈴が言った。


「えっ? 葵鈴の自転車の後ろに乗るの? 一台で行くなら僕が運転す……」


「いいから、いいから。早く早く」


 星という名のヒトデを抱えたまま、無理やり自転車の後ろに乗せられた。なんだかさっきから葵鈴の後ろにばかり乗ってるな。少しお尻が痛い。


「しっかりつかまっててね!」


 葵鈴が言った瞬間、自転車がぐん、と動き出した。骨貝様を横目に、白いビーチの上をエメラルドグリーンの海の方向へと走り出す。


「え? え? このままだと海直行なんですが? 僕泳げないんですが? 水着着てないんですが?」僕は慌てて叫んだ。


「全部任せて!」葵鈴も叫んだ。


その瞬間、


飛んだ。


自転車ごと。


一瞬の不思議な浮遊感。もう足は地上から十メートル以上離れている。


どんどん遠くなる美しい海。


うわ、僕高所恐怖症なのに‼

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る