第30話

 自転車置き場の隣にある倉庫に飾りを取りに行き、骨貝に飾り始めた。


 飾りは様々な星形の色とりどりのヒトデ、良く磨かれて七色に光る貝殻のオブジェ、ラピスラズリやペリドットのような美しい石のボールオーナメント、一見ベルのように見えるガラスの風鈴などだった。


 日本では飾られているのをほとんどみたことがないものばかりだ。さすが南の島のクリスマスオーナメントだ。そしてどれもとても美しい。


「八年前もこうやって一緒に飾ったね……」という言葉がでかかったが、慌てて飲み込んだ。


 あのことはさっき謝ったし、八年前のことを蒸し返してどうするんだ。


 葵鈴は今を生きている(死んでるけど)。葵鈴も八年前に一緒にツリーを飾った話は、してこない。


「そういえば葵鈴は、この島にどうやってきたの?」細長い空色のヒトデを、目の前にある骨貝の突起にひっかける。


 こうして見るとヒトデって自然のものなのに、ツリーに飾ってくださいと言わんばかりの星形だな。


「私の場合は偶然による手違い。本当は天国に行けるはずだったらしいんだけど、天国に行く途中で暴れて、この島に落っこちちゃったの」葵鈴は貝殻のサンタのオブジェを手に取った。やはりサーフボードに乗り、アロハにショートパンツだ。


「ふうむ。葵鈴らしいというか……」


「それでリベロビーチで泣いているところを、信介さんに助けられたの。昔は相当いうこと聞かなくて信介さんや島の人に迷惑かけたみたいなんだけど、今はすっごくいい子!」


「……いい子の定義を変えなくてはならないかもしれないね」


「この島は基本的にゲンジツに生きてる人しか来られないんだけど、私の場合は死んだのに来れてしまった。死んだ人がエルピス島みたいな場所に来る場合、影がもらえない。ホラ、私だけ影がないでしょ。お兄ちゃんや信介さんにはあるのに」


「影か……。影以外は大丈夫なの?」骨貝の少し上のほうに、透き通ったガラスに青いハイビスカスが描かれた風鈴をひっかける。風鈴は風に吹かれ、チリンと涼しげな音を奏でた。


「まあ、一応……ね。今は島の生活がすごく楽しいし、なによりこの島に私が来た理由の一つが、やっと分かった」


「理由の一つ?」


「多分今日、お兄ちゃんに会うためだったんだと思う」

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