第29話

 ビーチに沿って歩く。


 洋服屋やお菓子屋など本当にいろいろなお店がある。


 ビーチ沿いのお店が途切れたところを抜けると、突如として巨大な真珠色の骨貝のようなものが現れた。


 骨貝はサザエのような巻貝の一種だけど縦に細長く、三方向に魚の骨状に、細い突起が無数に伸びている。


 一度美術部のデッサンで静物画のモデルになってもらったこともある、おもしろい形の貝だ。貝の下のほうは砂に埋まって見えなかったが、上の部分だけで三メートルはありそうだった。


 なぜに突然こんなものが?


「この貝、ナニ?」


「今日の主役だよ。骨貝様」


「シンボルか何か?」


「島が見つかったころからの島のシンボルでもあるし、今日明日はツリーとして活躍してもらうの」


「ツリー?」


「今日はクリスマスイブだからね。もうすぐお祭りが始まるの」


「さすが、南の島の発想だね。もみの木どころか、そもそも木じゃないんだ……」

 これは果たしてツリーと言えるのだろうか?


「もみの木は、この温度じゃ生きていけないから。ま、骨貝は魔除けにもなるらしいし。クリスマス気分がでればなんでもいいの」


「いま、南国の風が吹いた気がした……」

 思わず僕はつぶやいた。南の島特有の適当さ加減が、なんだか今日は心地いい。


「さっ、早く飾っちゃわないとみんなが来ちゃう‼ お兄ちゃんも手伝ってくれる?」


「もちろんだよ」

 そうは答えたものの、どうしても八年前を思い出してしまう。


 今度は、今度こそは、葵鈴と一緒にクリスマスの日を、過ごすことができるのだろうか?

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