第27話

「葵鈴は島で、何の仕事をしてるの?」


 信介さんが入れてくれた食後のコーヒーを飲みながら、聞いた。


「島には人生に迷っている人が、『自分に本当に大切なもの』を探しに来る。私はその手助けをするツアーガイド兼島(とう)長(ちょう)。信介さんは私の保護者兼相談役」


「十一歳で島の長? こども島長? 政治家?」


「まあ、形だけだけどね」


「意外に子供のほうが、素直でいい案も浮かぶんや。それに葵鈴はよく勉強してるしな、センスがええんや」


 信介さんに褒められて、葵鈴は少し嬉しそうだ。


「島はどうやったら来れるの?」


「島が、その人に本当に必要だったら来れると言われてる。入り口やきっかけはいろんなところにある。お兄ちゃんみたいに強い衝撃を受けるとか、自宅のトイレの扉を開いたら島だった、なんて報告もある。でももちろん強い衝撃を受けたらからって、必ず来れるわけじゃない」

 葵鈴が言った。


「僕には島が必要だったのかな……」


「必要だったんだよ。そして『自分に本当に大切なもの』を見つけられないと帰れない。もちろん帰りたくなければ帰らない選択肢もあるけど」


「『自分に本当に大切なもの』なんて、全然見当がつかないなあ……」


「『自分に本当に大切なもの』が手に入ると、出口の扉の鍵もゲットできるの」


「エルピス島みたいな場所は、ほかにもたくさんある。町のこともあるし、雪山のこともあるし、お城や宇宙船のこともある。どんな場所に行くことになるかは、その人次第や。ただしタマシイ同士がひかれあうのか、ゲンジツで近しい関係の人は、近しい場所に来てしまうことが多いんや」

 信介さんも説明してくれた。


「そしてこの島にやってくる場合は人間そのままの姿で来ることもあるし、なにか別の姿になってくることもある」

 葵鈴は続けた。


「別の姿?」


「怪物になったり、モノになったり」


 少し涼しい風が吹いてきた。


 また、背後の森でカサカサと音がした気がしたので、後ろを振り返ったが、なにもなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る