第24話

 二人でココナッツの実を抱えて、信介さんとアーリアのいたテーブルに戻った。


 テーブルにオーロラのように光る飲み物とグラスがあったが、一人と一匹はいなかった。


 そしてほんのわずかではあるが、白いビーチに、点々と鮮やかな血痕のようなものがあった。


 血痕……?


 この美しくのんびりとした島には、明らかに不釣り合いだった。


 少し不吉な予感がした。背後の森で、カサカサ……という音が聞こえた気がした。


「どこ行っちゃったんだろう?」


 ココナッツの実をテーブルに置きながら言った。


「近くにいるかもしれないから、探してみようか?」


 信介さんを探しに行った。


 海にはいない。


 森の近くにもいない。


 アーリアを飼っているマリーナのそばの小屋にも行ったが、アーリアもいない。


 一体どこに行ってしまったのだろう?


「まさかアイツじゃないよね……昼間だし……」


 葵鈴が難しい顔を浮かべた。


「あいつって?」


「いやっ。なんでもない。まずはお兄ちゃんは、この島を楽しまないと。冷めちゃうし、先に食べてよっか?」


 その時、背後から信介さんの声が聞こえた。左手には包帯を巻いている。


「いやあ~かんにんな~。アーリアが眠たそうだったのにちょっとからかってたら、いきなり噛まれてな。手当しに行ってたんや。先、食べててよかったのに」


「えっ? サメに噛まれちゃったんですか? 大丈夫ですか?」


 僕は驚いて聞いた。


「大丈夫や。わいもアホやなあ。からかいすぎた」


 信介さんは少しおどけた感じで言った。


 でもその目はムリをしているような、不安な色が浮かんでいた。


 額にうっすらと汗がにじんでいる。


「もう~心配させんといてや! サイコロサメとはゆうても、サメはサメなんや! 眠いの起こしたら、誰だって怒るよ! アーリアはどこや?」


 葵鈴は信介さんと話すときは関西弁になるらしい。ちょっとびっくりしたけど、関西弁でしゃべる葵鈴もかわいいな。


「う…んと、噛まれたとき蹴ってしまってなあ、ウェーブロックの近くの病院で診てもらってるんや。あとでお迎えに行くわ」


「じゃあ、冷めないうちに食べようや! お兄ちゃんがキャッチしたんやねんで!」

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