第23話

「受け取って~」


「は~い」


 先ほどと同じキャッチボールが繰り返された。


 そう言えば家族でオキナワに行ったとき、ココナッツジュースを飲んだことがあった。


 その時母がジュース屋のおばちゃんに「ココナッツが脳天に直撃して死ぬ人の数は、サメに襲われて死ぬ人の数よりも多いから気を付けて」と、謎のアドバイスを受けていたのを思い出した。


 ココナッツは時に「ココナッツ爆弾」と呼ばれることもあるそうだ。


 めったに落ちることはないみたいだけど、今回は違う。まさに頭の上に落ちてくるココナッツを、バスケのパスの要領でキャッチするのだ。


「受け取って~」


「は~い。今度はお兄ちゃんね」 


 突然葵鈴が、僕にパスを譲った。


「えッ? へええ?」


「早く早く!」


 僕はおろおろしながら、三本目のヤシの木の下に走っていった。


 突き指しちゃうよう。


 仕方がない。


 腹を据えた。


 ココナッツ爆弾は結構なスピードで、僕の頭にどんどん向かってくる。


「実から目を離さない! 最後までよく見て!」


 葵鈴先生という、突如現れたバスケ部顧問からの指導の声。


 僕は落ちてくる実をよく見た。


 両手を頭の上に伸ばした。そして……。


 キャッチした。


 ドッチボールは逃げる専門だし、野球ではバッターボックスに立ってバットを振ると、バレリーナのごとく一回転してしまうし、サッカーのヘディングでは、顔ばかりで頭を使ったためしがない。


 そんな運動音痴の僕が……はるか上空から落ちてくるココナッツを、突き指することなく、取った~~~‼


「やるじゃない」


 お姉さんが驚いたように言った。


「ね、やればできるんだよ! できると決めたらできるんだよ!」


 葵鈴先生のありがたいお言葉も頂いた。 


 残りの二つの実も僕がキャッチした。


 だんだんとコツがわかってくるのを感じた。


 ココナッツをもぎ取るとすぐに、木からはトウモロコシの実のようなものが出てきて、黄色い小さな花が咲き、あれよあれよと思う間に、実がなった。


 この不思議な現象について、葵鈴に聞いてみようと思ったときにはもう、葵鈴は歩き始めていた。

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