第22話

「五つね。ちょっと待っててね」


 ゆっくりとハンモックから降りた女性は、コインを受け取って、細いウエストについている小さな革の袋に入れた。


 麦わら帽子をハンモックに置くと、ツヤツヤと光る髪を耳の後ろにかける。二十歳くらいだろうか。


 南国とはいえ、お店の人の割にちょっと露出が高すぎるのではないだろうか? 


 なんだか少し頭がクラクラするのは、照り付ける太陽のせいだけではないと思う。


「星羅さんはね、あとでDJセイラにもなるんだよね! ジャンベとかパラフォン演奏する人もいて、すっごく楽しいの」


 葵鈴がさしすせその木の左横を見ながら言った。確かに立派なDJセットが、流木のような味のある木の上に置いてある。


「ちょうどクレスクントビーチは西側だから、海に沈む夕日をバックにDJするの‼ もう、最高にかっこよくてステキなの!」


「月が輝き始めるころスタートするから、楽しんで行ってね」


 そう言いながら星羅さんは、少し微笑んだ。サンダルを脱ぎ、突然ヤシの木に長い手足をかけた。


 そして胸の谷間が一瞬揺れたかと思うと、両手・両足を尺取り虫のように動かしながら、どんどん昇って行った。


 TVの動物番組で見た、オラウータンのような鮮やかさだ。とても人間業ではない。


 太いとは言えないヤシの幹が、わずかに風で揺れるのも、ものともしない。


 幹の途中で止まることなく、あっという間にてっぺんに着いた。腰につけていた小さなナイフを取り出し、ココナッツをもぎ取った。


「受け取って~」


 手を振りながらお姉さんが言う。あああ木の幹を両足で挟んで、両手を離してる……。


「は~い」


 葵鈴が言った。ココナッツが目の前に落ちてくる。結構な高さからの落下だ。葵鈴は難なく受け取った。運動が苦手な僕にはとてもできない。


 そしてお姉さんはさらに高度な曲芸をやってみせた。二メートルほど離れた隣のヤシの木に、飛び移ったのである‼ 


 さっきとは違う意味で僕は頭がクラクラした。命綱もロープも何もないところでの、軽やかなジャンプ。落ちたら僕なら首の骨折って氏ぬ……。

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