第21話

「このお店?」


 目の前には十メートルほどの高さのヤシの木が五本、風に揺れている。


 青い空にヤシの葉がさわさわとそよぎ、ステキな光景ではある……が食べ物を売っている雰囲気のお店ではない。


 さっきのイカ焼きのほうが良かったのでは……と思ったが、葵鈴はもうこのお店で買うことを決めてしまったらしい。


 というか、屋根も壁もドアもなくヤシの木があるだけなのだが、そもそもお店なのだろうか? 


 ヤシの木にはかなり大きなリーフグリーンのココナッツがなっているようだが、ココナッツジュースを買いに来たのだろうか? 


 ヤシの木とヤシの木の間でわずかに揺れている白いハンモックには、誰か寝てるし。


「これはさしすせその木っていうの。味だけはわかるのだけど、ココナッツの中からどんな料理が出てくるかわからないの。でも何食べてもすっごくおいしいの」


 よく見るとそれぞれのヤシの木の下には、小さな木の看板のようなものが立っていた。ただしそれぞれ「さ」「し」「す」「せ」「そ」としか書いてない。


 謎すぎる。そもそも料理がココナッツに入ってるって? 料理したものをココナッツに入れてふたをして、また木に戻したのか? いやそんなめんどくさいこと……。


「どれがいいかな? まあとりあえず全部買っていくか。星(せい)羅(ら)さ~ん」


 葵鈴が、ハンモックに寝転がっている女性に近づいて声をかけた。


 良く日に焼けた滑らかな肌。


 白百合色のビキニからは大きな谷間がのぞき、呼吸のたびにかすかに上下している。


 デニムのショートパンツから伸びる長い足がゆっくりと組み替えられる。


 その優美な姿から、目が離せない。


「せ、い、ら、さ、ん」


 葵鈴がさらに呼びかけた。


 星羅さんと呼ばれた女性が、ハンモックの上で伸びをした。そしてゆっくりと体を起こしていく。


 顔にかぶっていたつばの大きな麦わら帽子を、頭に乗せる。やっと顔が見えた。


 透き通ったオリーブグリーンの神秘的な瞳。


 細い鼻すじ。


 少しウエーブのかかったセピア色の長い髪。エキゾチックな美しいお姉さんだった。

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