第19話
「ここだよ、ここ‼」
葵鈴がタンポポ色のワンピースの自分のお腹を、ポンと叩いて言った。
僕がどうとでもなれとサメに跨ると、葵鈴は色白の細い腕を後ろに回し、しっかりと自分の細いウエストに僕の腕を絡ませた。その瞬間、サメが急に泳ぎ始めた。
信介さんはひゃっほうなどと叫んでいる。今まで会ったことがないような、ファンキーなおじいさんだ。美しい海の上で曲芸師のように、何度も奇声をあげながら宙返りを繰り返している。
このエルピス島という島は少なくとも数十人以上の人たちが暮らしている、それなりの大きさの島のようだった。
最初海に落ちたときは、無人島にでも漂流したかと思っていたくらいだったが。
海から眺めると、ジャングルのような森が珊瑚色のビーチのそばまで迫ってきてはいるものの、かやぶき屋根のかわいらしいお店が、ビーチに沿って十件くらい並んでいる。
店と店の間に大きなヤシの木が生えているお店もあり、森に包まれたような、森と共存しているような様子だった。
お店が途切れたあたりのビーチからはウッドデッキがのび、ウッドデッキの両端にはかやぶき屋根の小屋が二十軒位連なっている。
正面の海中に、木でできた巨大な円形の建物が突如として見えてきた。
「あれが海中ホテル! お部屋のガラス窓から、海の中が見えるの。サンゴ礁の海の中をたくさんのきれいなお魚が泳いでたり、ウミガメやマンタが遊びに来たりして、すっごくステキなの。ベッドに横になりながら見るのも気持ちがいいんだよ」
海中ホテルの横を抜けて、しばらくエメラルドグリーンの海を行く。珊瑚色の砂浜は、島の反対側に近づくにつれ白くなっていった。
ヤシの実の色もテェリ―レッドのものはなく、リーフグリーンの普通の黄緑色だ。先ほどの幻想的な場所は、一体何だったのだろう。
「マリーナをちょっと行ったところで、止まって」
葵鈴がサメの背中を優しく叩きながら言った。船がたくさん停泊している場所のそばで、サメがゆっくりと止まった。
ビーチに沿ってアジアンテイストのお店が、十軒ほど並んでいる。店の後ろは先ほどのビーチと同じように熱帯の森のようになっていて、ところどころ店と店の間の隙間からヤシの葉が飛び出している。
肌に照り付ける真夏の太陽が熱い。周りに七色の丸い虹がかかった、不思議な太陽だった。
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