第18話
「今はエルピス島で大切な仕事を任されてるし、毎日すごく楽しいの」
「仕事? 子供なのにもう仕事してるの? どんな仕事してるの?」
聞きたいことがたくさんあった。
「そのうちわかるよ」
「ここは天国なの?」
「天国とはちょっと違うかな」
「助けてってなに?」
その時、目の前にロータスピンクのサメの背びれのようなものが見えたかと思うと、誰かが盛大な水しぶきを上げて鮮やかな宙返りを決め、これまた盛大な水しぶきを上げて着水した。
凪いでいた海が急に波だち、僕も葵鈴も頭から海水をかぶってしまった。着ていたハッピー(もうこの言葉遣いには慣れた)もずぶ濡れだ。葵鈴は「大丈夫。すぐ乾く乾く」などと言ってケラケラ笑っている。
「紹介するね。今日からアルバイトさせてもらうお店のオーナーの信介さんだよ! こっちはサイコロサメのアーレア!」
葵鈴が言った。アルバイト? そんなの聞いてないけど、まあいいか。
「さるうすしす!」
良く響く低い声のおじいさんが、謎の関西弁で謎の挨拶をした。赤いとんがり帽子を取ってウインクのおまけつき。
おじいさんは白地にスカーレッドのハイビスカスのアロハシャツと、同じ赤のパンツを着てサーフボードに立っていた。
一見するとズボン履き忘れた、あわてん坊のサンタクロースのようだ……しかしよく見るとパンツじゃなくて、赤い水着のようだった。
南半球のクリスマスでは季節が北半球と逆なので、サンタが水着でやってくると聞いたことがある。
でもここはそもそも地球なんだろうか?
日に焼けた肌に白い口ひげ。少々お腹が出ているが、背が高くダンディで、なかなかかっこいい。優しそうな海老茶色の目が、子供のように光っている。
「とにかくおなかもすいたやろ。クレスクントビーチ行ってランチしようや」
信介さんは止まっているサーフボードの上で、上手にバランスを取りながら言った。
「これに乗るの?」
葵鈴がサメに跨るのを見て、僕は慌てて言った。
「しっかりつかまって」葵鈴はサメの背びれを握りながら言った。
「え? どこに?」
サメのつるつるした背中には、つかまるところなんてなさそうだ。
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