第17話

「私は、好きだよ、お兄ちゃんのこと。不器用で、優しくて、頑張り屋で」


 右耳を飾る鮮やかなスカーレッドのハイビスカスを、少し右手でいじりながら葵鈴が言った。


「な……んで? どうして葵鈴がここにいるの?」


「だって私がお兄ちゃんのこと呼んだんだから、当然でしょ。呼んだのに呼び手がいなかったら、来た人は困るでしょ」


 そりゃそうだけど。いや、そんなことより……。


 ずっと言いたかった、言わなきゃならなかった言葉。猫猿がするすると葵鈴の足をよじ登り、肩につかまった。


「あのとき……ごめん。ごめんなんて言葉じゃ、許してもらえないようなひどいこと……」


 気持ちが溢れて、泣きそうになった。


「あ~あのことね。はっきり言っておくけど、あれはお兄ちゃんのせいじゃない。誰のせいでもない。偶然に偶然が重なって、私はここに来た。でも今は必然だったんだなって思う。そりゃ最初はびっくりしたし、お兄ちゃんにもパパにもママにも会えなくなっちゃって、寂しかったけど……あれは運命だった。人生には、そういうときが何回かあるの。それに気づいたら腹を据えなきゃ。生かすも殺すも自分次第。私は死んだことによって生きてるけど」


 葵鈴は猫猿を優しくなでながら言った。

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