第15話

「ヒトは、ただ生きているだけで尊いのです」


「は?」


 本当になんなんだろう、このテディベア。


 思わず今ごろの季節になると、新宿などに現れる風物詩的お兄さんを思い出した。寒空の下黄色い看板を掲げて、「聖書の言葉」を流している奇特な方々だ。


 その時だった。ヤシの木が揺れ、突然小さな薄紫の塊が、僕の頭の上に落ちてきた。


「うわっわわわ!」


ナニコレ? ナニコレ? なんかのイキモノ? 頭に爪のようなものが引っかかって少し痛い。


「取って~~~~」


 テディベアはそんな僕に構わず、大きな身振り手振りでしゃべっている。


 よくわからないイキモノに噛まれないか心配だったが、とにかく頭から取ろうと手を伸ばすと、そいつはきいきい小さな声をあげながら僕の腕から肩へ、そして肩から手の平にやってきた。コイツは……。


 かつて世界最小のサルと言われていた、ピグミーマーモセットではないか‼ 


 幼いころ両親と行った草津熱帯園で触ってからというもの、一時期飼いたい飼いたいと切望していたサルだっだ。葵鈴の事故の後は、そんなことはすっかり忘れてしまっていたけど。


 ピグミーネズミキツネザルが発見されてからは最小の座は明け渡したが、僕はマーモセットが好きだった。


 澄んだ目をした、手のひらに乗るほどの小さな小さなサル。僕の人差し指を両手で抱え、まん丸な目で僕をじっと見ている。ちょっと小首をかしげた。


 でもあれ……ちょっとヘンだぞ。ふわふわの毛が藤の花みたいな紅藤色だし、鼻の横に長いひげがあるし、小さな三角の耳が長い毛の中から少し覗いている。


 猫みたいだ。猫猿? そんなのいるの? 


 次の瞬間、猫猿がテディベアの肩に飛び移った。テディベアの話は続いていた。

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