第14話

「食べたらとっととハッピーに着替えてください」


 テディベアがド派手なハッピらしきものと、黒いショートパンツと白い足袋を手渡して言った。お祭り?


「え? それハッピでしょ」


 ゼリーの最後の一口を、急いで食べ終えて聞いた。


「違う違う。ハッピーです。ま、着てみたらわかりますから」


 ハッピを恐る恐る受け取る。ハッピはよく見ると、空色に富士山などの日本の風景が描かれ、ダルマやナスや鷹のような鳥があしらわれた模様になっており、美しくも斬新なデザインだ。


 背中には「祭」という文字が赤いハイビスカスで描かれている。こんなハッピ、見たことがない。


「シンスケ・ナカムラがデザインしました。夢と祭がテーマらしいです。とにかくとっとと着てください」


 シンスケ・ナカムラって誰? 


 そう思いながらもテディベアにせかされてハッピを着てみる。


 んん? なんだか楽しくなってきた気がする。ちょ、ちょっとまて。ついさっきまで、僕は死のうとしてたんだぞ! そんないきなりハッピーになんてならない‼


 アレ? なんで死のうとしてたんだっけ? 葵鈴を殺した過去があるから? いじめられてるから? 確かにすごくすごく辛いことではあるけれど……。


 そもそもハッピ着ただけでハッピーなんて、思いついても口に出してはならないようなヒドイギャグだろ。でも……。


「ね、ハッピーでしょ?」


 テディベアは少し微笑んだようだった。


 もう、いいや。テディベアは笑うし、黄色いカニが、ヤドカリみたいに前に歩く世界だし。多分夢だし。


「あなたは随分アンハッピーな服を着てましたね。

着ても着ても本当には温かくならなかったでしょ。さぞかし重かったでしょ。着ている服の重さは、心をどんどん重くしていた。そのうち自らどんどん着こんで、自ら自分の心の洋服を厚くしていった。あなたの心はさっきまで、平安時代のお姫様並みだった」


え? そんなこと言われたって、冬だし。寒かったし。

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