第13話

「海ブドウのゼリーです」


 突然声をかけられて、飛び起きた。


 目の前にはチョコレート色のテディベアが、ゼリーらしきものを持って二本足で立っている。


 幼稚園児くらいの身長で、まるまると太っている。


 海にテディベア? 濡れても大丈夫なのだろうか?


「今、しゃべったのは、あなたですか?」


 ドキドキしながらも、怒らせたりしないように静かな声でゆっくり尋ねると、テディベアがこくこくとうなずく。


「エルピス島へようこそ」


 テディベアが感情の読み取れない少し高めの声で、淡々としゃべった。


 今度こそ、見た。テディベアの口がぱくぱくと動きながら、言葉を発したのを。


「ウエルカムゼリーってとこです」


 ゼリーと木でできたスプーンを渡しながら、テディベアがまたしゃべった。とにかく危害を加えられることはなさそうだ。


 僕はこれから何が起こるのか見当もつかず、とにかくゼリーを恐る恐る受け取った。


 ゼリーは海の色そのものの、エメラルドグリーン。


 白い貝殻のお皿に載って、僕の手の震えがそうさせるのかぷるぷると震え、いかにもおいしそうだ。


 そういえば昨日の昼から、なにも食べていない。


「どうぞ。海ブドウのゼリーです」


 テディベアは、さっきと同じセリフを繰り返した。


 黒いビー玉みたいなまん丸の目ながら、少々迫力のある表情で、僕をじっと見つめている。


 食べて食べて食べて……いまにもそう聴こえてきそうな雰囲気だ。その静かな気迫に気圧されて、


「もうどうとでもなれ!」という気持ちでゼリーを一さじスプーンですくって、口に入れた。


 マスカットのようなさわやかな味と香りが、口の中で広がる。こんなにおいしいゼリーは初めてだ。海ブドウ……やっぱりオキナワなのかな?

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