第12話
中学では美術部に所属しているけどお小遣いはいつも足りないから、絵の具は買えなかった。
油絵の具はもちろん、水彩絵の具でさえも。父には言えなかった。
だから子供用のクレヨンで絵を描いたり、2Bの鉛筆でいろんな世界をデッサンしては、頭の中でその絵に色がついているところを、想像した。
毎週世界堂の絵の具コーナーに通ったり、ネットで絵の具の色見本を見ているうちに、たくさんの色を覚えた。
ちなみにエメラルドグリーンは人生・経験・鍛錬で、ほとんど僕にないもの。珊瑚色は意欲・勇猛・外交的で、これもほとんど皆無だな。
タンポポ色のカニはちょこちょこと器用に前歩きをし、厳かに海に消えた。
かなり驚いたが驚くことが多すぎるので、カニが前歩きをした時点で、この謎の世界で驚くのはもうやめようと思った。
洞窟のようなごつごつした岩や、キノコのように下の部分が大きくえぐられた奇岩は、遠い夏の日、まだ葵鈴が赤ちゃんだったころに家族みんなで行ったオキナワの海を思わせた。
海に来たのなんて何年ぶりだろう。それもこんなに美しい海。家族みんなに見せたかった。
風に揺れるヤシの木。実の色はなぜか目の覚めるようなルージュで、ルビーのように輝いていた。
とにかく寝よう、もうあまり何も考えず寝てしまおうと思い、ビーチに寝転がって目を閉じた。
静かに打ち寄せる波の音。そういえば最近、あまり寝れていない。
すごく気持ちがいい……温かい風が体全体を撫でていく。
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