第9話

 その日を境にクラスメイトからの無視、金銭の要求、プロレスごっこという名の暴力が始まった。


 テストで良い点を取ったり、授業中に挙手して発言したりすると、放課後殴られた。航志に言わせれば入学当初から、僕は不愛想でガリ勉っぽくて嫌なやつだったらしい。


 クラスの誰も助けてくれなかった。担任の先生さえも、面倒を嫌がって取り合ってくれなかった。父にはこれ以上の心配かけたくなかったので、言えなかった。


 そのうちに「妹殺し」と言われるようになった。小学生だったころ親友だと思っていた友達に妹を殺してしまった悩みを打ち明けたことがあったから、多分それをばらされたんだと思う。


 僕は食欲がなくなって、ごはんがなかなか飲み込めなくなった。お腹が鳴っても食べたくないのだ。朝は胃が重くて時々吐いた。


 いじめがひどくなっていく中で、僕は大切なことを忘れていた。インコのアリスにエサをあげ忘れていたのだ。


 最近鳴かないなと思ってケージを見てみると、ケージの下のほうで目をつぶり、倒れて冷たくなっていた。


 エサはまだあるかと思っていたら、殻ばかりだった。インコが寒さに弱いことも忘れていた。


 僕は二度までも、葵鈴を、アリスを、殺してしまった。


 八年間心に固く蓋をしてきたはずなのに、まさに今、その蓋がはずれた気がした。


 濁流のごとく想いが噴き出してくる。


 倒れた黄色いインコと倒れた葵鈴の遺影が重なり、僕はもう「そういうことか、そういう運命なのか」と思った。これは啓示なのだと思った。


 僕はダウンコートを羽織り、外に出た。

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