第5話

 葵鈴がツリーと共に前のめりに、床に倒れるのが見えた。僕は慌てて葵鈴に駆け寄った。


ごきゅん。


 葵鈴を抱きかかえると、おかしな音が、葵鈴の喉の奥でなった。


 葵鈴のピンク色の頬がどんどん白っぽくなっていく。呼吸ができず、苦しそうだ。


「パパぁ‼ パパどこ?」


 大声でパパを探す。トイレにもいない。キッチンにもいない。


 ベランダに……いた! 煙草を吸いながら電話をしている。


「パパ、早く来て! 葵鈴が!」


「葵鈴がどうかしたのか?」


 そのあとのことはあまり覚えていない。


 ツリーが倒れたままちかちかと光り続けていたこと。


 そのそばで葵鈴に一生懸命人工呼吸したり、胸を強く押したりする必死なパパの姿。


 クリスマスで道が混んでいて救急車が全然来なくて、結局タクシーに乗り込み、近くの救急病院に行ったこと。


 葵鈴の頬と唇が真っ青になって、小さくてすべすべだった手が握っても握り返してくれなくて、どんどん冷たくなっていったこと。


 病院の先生の「残念ですが……」と言う低い声。

 

 駆けつけてきた、目が飛び出しそうなママの顔、病室に響いていたママの鳴き声。


 葵鈴はあまりにも短い人生を閉じた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る