第4話

「わああ~! キレイ‼」

 葵鈴が大きな瞳をさらに見開いて、歓喜の声をあげる。


「キレイだね……、完成!」

「かんせい!」

 最近はすぐ僕のマネするんだよな。そこもかわいいんだけど。


「じゃあ次は……」

 ツリーとお部屋の飾りつけは終わったし、お料理もケーキもパパが準備してあるし、どうすればみんなが喜ぶかなあ……。


「うーん。ちょっと考えさせてね」

 僕は自分のあごに右手をやって、葵鈴の大好きな青いキツネキャラクターの口真似をして言った。どんな困難もユニークな機転で切り抜ける、友達思いの頑張り屋のキツネだ。葵鈴がくちゃっとした笑顔になった。声を上げて嬉しそうに笑う。


 そのとき、ツリーの飾りが入っていた箱の中に、色とりどりのたくさんのゴム風船があるのが目に入った。


「これで部屋中を風船でいっぱいにして、パパとママを驚かせちゃおうか?」


「うん! いっぱい!」


 僕は風船を、何個も何個も作った。部屋は、赤、青、黄色、紫、黄緑の風船で溢れた。口が痛くなったけど、葵鈴やママやパパが喜んでくれるなら、頑張れる。葵鈴は小さな赤い唇に、赤い風船をくわえて、うんうんうなっている。


「葵鈴にはまだむりだよ~」

 僕は笑いながらトイレに行った。


 トイレから出ると、玄関に荷物がいくつも届いているのが目に入った。パパ一人じゃ運べないな。そろそろママがパートから帰ってきちゃうし、急がないと。僕は段ボールを二つ重ねて持った。結構重い。


 少し急いでリビングに運んだ。そのとき、何かが僕の右足に引っかかった。ツリーのライトのコードだった。


 しまったと思ったときには遅かった。


 僕は体のバランスを失い、派手に転んだ。


 目の前に投げ出される、大きい段ボールと小さい段ボール。


 ライトのコードが引っ張られ、コードがぐるぐると巻き付いていたツリーもまた、バランスを崩す。


 そして……。


 そのツリーが、


 少し小さな植木鉢に植えられたままで、


 少し倒れやすかったツリーが、


 ちかちかと美しく光りながら、


 風船を作ってママとパパを喜ばせようと必死になっていた葵鈴の後頭部を、


 ゴツッという鈍い音と共に、


 直撃した。

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