第2話
そもそもクリスマスは、二千年以上も前に遠い国で生まれたエライ人の誕生を祝っているお祭りなのに、今日や明日、一つの命が生まれた喜びを祝う人間が日本中にどれだけいるのだろう。
少なくとも僕と同じクラスのやつでそんな奇特な奴はいない……そんなことばかり考えているから、あいつらにいじめられるんだよな、と深いため息をつく。
もっと何も考えずに、もっと存在をできるだけ消して軽くして、楽しくない時でもニコニコ笑って、グループトークにはすぐに返事して、空気をよんだ言動を心がける。
クラスの多くの子ができることを、僕もすればいい。でも僕にはなぜかそれができない。そしてあの時、転ばなければよかったんだ。なぜいつもいつも肝心な時に転んでしまうのだろう。
にぎやかな商店街を抜け、バス通りに出る。
さっきまで降っていた雨が、湿り気を帯びた雪に変わっていた。見上げると薄暗い空から、大粒の雪が降ってくる。
雪は空気中の小さなゴミに水蒸気がくっついてできるものらしいが、それでもいい。それでも儚く美しい。ホワイトクリスマスだ。これは啓示だ。
立ち止まって車道を眺めていると、タクシーが走ってくる。客に頼まれたのか、結構スピードが出ている。でもあのくらいの大きさじゃダメかもしれない。なにより小さな子供が乗っていた。
今度はバスが来た。大きくて重そうだけどゆっくりだし、乗っているたくさんの人に迷惑をかけるかもしれない。もう少し歩いてみよう。
交差点まで来た。信号が青に変わり、右側から何台かの車が流れてくる。少し車間が開いたので遠くに目をやると、大きな黒いトラックが走ってくるのが目に入る。広い道路とはいえ、結構な速度だ。
クリスマスに、何をそんなに急いで運んでいるのだろう。もしかしたら運転しているのは、荷台にたくさんのプレゼントを乗せた、黒い服を着た黒ひげのサンタかもしれない。
あれだけ強そうな車なら、運転しているサンタは、ほとんどケガさえもしないだろう。そういえばサンタとサタンって響きが似てるな。
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