第38話 しらなかったこと

「なるほど、領主様からの手紙、ね」

「すごいわね!」

「すごいん、ですかね?正直領主様について詳しく知らなくて。お二人は何か知っていますか?」

 正直貴族ってそんなにいい印象がないんだよね。勇者の件に関する王族の対応みたいに。

「たしかに貴族には私利私欲のために領民に重税を課すみたいなやつも多いが、ルドベキア様は領民思いだと知られているな」

 領民思い?

「ああ、といってもこの村にずっと住んでいたら実感がないか。そうだなー、カルミア、この村に住んでて税金が払えなかったことはあるか?」

 税金?

「いえ、お店を始めたばかりのころでも払える額が請求されました。それどころか最初のころはむしろ支援金が出ていましたね」

「ほかの村じゃそんなことはめったにないのよ。お店をはじめたばかりの人でも重税を課されることなんて珍しい話じゃないわ。ひどいところだと路頭に迷った人や不作で収入がまったくないような人にも平気で重い税をかけることもあるわよ」

 ベリル村では職のない人は数か月間食べ物と住む場所が与えられてその間に仕事を見つけるようになっている。それに仕事が気候や伝染病などの影響を受けて収入が減った人に対してはその分税金も減るようになっている。

 だから税金で苦しむということに対して実感がなかった。

 それってどこでも同じじゃないんだ。

「それどころか領地の運営もまともにやらない領主もいるな。そんな領地はお金がないから設備が整わず、設備が整わないからお金も稼げないっていうループができてて、都市部に出稼ぎに行くやつも多い」

 そんな場所もあるんだ。

 この村に住んでるだけじゃ気づかなかった。自分たちが恵まれた環境にいたなんて。

「領主によってその地域の状況は本当に変わるんだ。これだけ恵まれた領地はめったにないからな。だからまぁルドベキア様に会っても少なくとも理不尽なことは言われないと思うぞ」

「きっと何か困ったことが会って、カルミアちゃんならって思ったんじゃないかな?」

 なるほど。二人がそう言うのなら招待に応じて行ってみようかな。

「行ってみることにします」

 わたしの返事に二人は笑顔でうなずいた。

 そのとき、シュロさんが「それにしても」と口を開いた。

「何度聞いてもフェンリルを倒したってのは驚きだよな!」

「だから倒したわけじゃないですよ!いろいろと運が良かっただけで・・・」

 しかし、わたしの訂正にアルメリアさんは「それでも」という。

「カルミアちゃんのおかげで村もフェンリルとその仲間も救われた。これは紛れもなくカルミアちゃんが成し遂げたことよ!」

「アルメリアの言う通りだ!」

 二人にそう言ってもらえるのはうれしいな。

「オレたちもうかうかしてたらカルミアに追い越されそうだな!」

「そうね。わたしたちも頑張らないと」

「いえいえ、わたしこそもっと頑張らないと。ところで、お二人は最近何かあったりしたんですか?」

 わたしの質問に二人は「それがな」と切り出した。

 結局わたしたちは日が沈みだすまで話していた。

 

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