第35話 お別れと再会

 祝いが明け、後片付けを手伝ったわたしは帰りの支度をしていた。

「本当にもう行くんだね」

「はい。行くときに心配してくれた人に無事だと伝えないといけないので」

 パキラさんんは寂しそうな顔をしたけど、すぐにまたいつもの笑顔に戻った。

「まあ今生の別れってわけじゃないしな。生きてりゃまた会えるさ。達者でな」

「パキラさんも、それから村の皆さんもお元気で」

 そうわたしが別れを告げるたところに、フェンリルが近づいてきた。

「主には本当に世話になった。改めて礼を言わせてくれ」

「いえいえ。そんな。村の人たちをしっかり守ってくださいね」

「ああ、もちろんだ。それからもしも主が何か困ることがあったら我が力を貸そう」

「⁉ありがとうございます!」

「なに、これが我からできる最大限の礼だ」

 まさかこの村に来たばかりのころはフェンリルとこうして話すことになるなんて思いもよらなかったな。

 わたしはもう一度お礼を言って、街まで送ってくれるというアジェガさんの馬車に乗り込んだ。

「よろしくお願いします」

「はい。帰りは来る時のように急いでいくことはないので安心してください」

 たしかにあのスピードで乗るのはもう勘弁かな。

「しっかりカルミアを街まで送り届けるんだよ!」

「はい!もちろんです!」

 アジェガさんの返事に満足したパキラさんは再びわたしの方を見た。

「また来なよ!」

「はい!」

「それじゃあそろそろ出発しますよ」

 そういってアジェガさんは馬車を出発させた。

「皆さん!お世話になりました!どうぞお元気で!」

 わたしがそういって振り返って手を振ると、村の人たちも総出で見送ってくれた。

「ありがとうね!」

「また来てくれよ!」

「今度は新しく生まれ変わった村を案内するよ!」

 村の人たちは姿が見えなくなるまで見送ってくれた。

 わたしも村の人たちの姿が見えなくなるまで手を振り続けた。

「さて、夕刻までには街につきたいのですこしスピードをあげますよ」

 アジェガさんはそう言って馬車のスピードを上げた。

 急に馬車が加速する。

 行きの時みたいにとんでもないスピードってわけじゃないけどそれにしても速い。

 もちろん馬車が新しくなっているうえに今回はわたしのことも考えて調整してくれているから乗り心地はいいんだけどね。

「速すぎだったりしますか?」

「いえ、大丈夫です」

「そうですか。ならよかった。行くときはスピードを上げすぎてすみませんでした」

 気にしてたのかな?

「あの時は仕方がないですよ」

「そう言ってもらえてありがたいです」

 そのままわたしはアジェガさんと会話をしながら馬車に揺られ日が傾き始めたころには街へと戻ってきた。

 わたしとアジェガさんは馬車から降りた。

「さて、それじゃあここまでですね」

「ありがとうございました!」

「いえいえ!俺の村を救ってくれたんですからこれくらいあたりまえですよ!その、本当にありがとうございました!」

 アジェガさんは深々と頭を下げた。

「あなたのおかげで俺の村は救われた。この恩は一生忘れない!」

 突然のことに驚いたけれど、きっとわたしがアジェガさんの立場ならきっと同じことをしただろう。

「こちらこそ少しの間でしたがお世話になりました」

「またいつでも来てください!」

 わたしはアジェガさんに別れを告げて街の中に入った。

 戻ったことを伝えようとラークスパーさんのお店に戻るとお店の中にはラークスパーさんとカンナさんがいた。

 二人はお店に入ったわたしの姿を見ると一目散に駆けつけてきた。

「よかった!無事だったのね!」

「オレは大丈夫だって思ってたけどな」

「何言ってんのよ!心配で仕事もままならなかったじゃない!」

「それを言ったらお前だってオレの店に『カルミアちゃんは戻ってきた?』ってしつこく聞いてきてたじゃないか!」

「なんですって!」

 二人は言い争いを始めてしまった。

 でもこのやり取りを見ていると街に戻ってきたなって感じがするな。

「あ、あのー」

 わたしがそう言うと二人は気まずそうにしながら言い争いをやめた。

「すまん取り乱したな。なんにせよ無事でよかった」

「大丈夫?怪我してない?」

「はい!大丈夫です!」

「そう、それならよかった」

「さて、今夜はパーティーといこうぜ!」

「そうね!そうしましょう!」

 ・・・昨日の夜も結構食べたんだけど、それを言うのは野暮だよね。

「ありがとうございます。それじゃあお言葉に甘えて」

「きまりだな!さて、早速準備だ!カルミアの嬢ちゃんは店の中でゆっくりしてな!」

「わたしもおいしそうなものを何か買ってこないと!」

 二人は競うようにしてお店から出ていった。

 昨日から寝てないし長旅で疲れたからお言葉に甘えてゆっくり休ませてもらうことにした。

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