第34話 戦いの後の祝杯です

 村の人たちはフェンリルの姿を見て驚いていたけど、パキラさんが事情を説明すると、恐る恐るフェンリルに話しかける人も何人かいた。

 フェンリルはその度に丁寧に謝罪をし、これから村の守護者となる旨を伝えた。

 それを聞いた村の人たちは少しずつ打ち解け始めたようだった。

 当然遺恨は残るだろうけど、それはこれから少しづつ解消していくだろう。

 ちなみにこの村自体はフェンリルの領域ではないためこの周囲で狩りをする分には構わないらしい。

 また、フェンリルも仲間たちにこの村を襲うことのないように伝えてくれるようだ。

 しばらくするとフェンリルはわたしの方に来た。

「カルミアと言ったか。ぬしにも感謝しないとな。ぬしが彼らの怪我を治したから、我らにこのような道がひらけた。感謝する」

「いえいえ。そんなたいそうなことはしていませんよ」

「そう謙遜すんなって」

 そう言って笑いながらパキラさんをやってきた。

「カルミアはあたし達の村だけじゃなく、フェンリルたちのことも救ったんだ。あたし達からも感謝をおくらせてくれ」

 そう、なのかな?

「わたしの方こそ、1人だったらきっと何もできませんでした。ありがとうございます」

 そういうとパキラさんは再び笑い、フェンリルはやれやれと言った表情をした。

 なんだろう?

 しばらく笑ったパキラさんは再びわたしの方を見た。

「さて、それじゃあ今日は村の新たな門出を祝して祭りと行こうと思うんだが、カルミア、あんたも参加してくれないか?」

「それならぜひ」

 それを聞いたパキラさんは満足そうに頷いたが、「ただ」と申し訳なさそうに口を開いた。

「たいした物は出せないんだがね」

「それなら我がなんとかしよう」

「本当かい!」

「ああ、我としても何かせねばと思っていたからな。ちょうど我が領域によそからの獲物が入ってきておったのだ。何匹か仕留めてこよう」

 そういうとフェンリルは姿を消した。

 どうやらさっそく狩りにいったらしい。改めて見てもすごい速さ!よくあれに対応できたな。

「さて、村のみんながカルミアにお礼を言いたいって言ってるんだ。よかったらあいつらのところにいってやってくれないか?」

「わかりました」

 断る理由は特にないので、わたしは村のみんながいるところへ行った。

 村の人たちからこれでもかとお礼を言われたのは気恥ずかしかったけど、村の人たちの生き生きとした表情を見ていたらわたしまでうれしくなってきた。

 そのまま村の人たちと話しながら祝いの準備の手伝いをしているとあっという間に夜になった。

 戻ってきたフェンリルがこれでもかと山積みの獲物をしとめてきたときは全員喜びながらもちょっと引いていたけど。

 でもフェンリルが村の人たちとうまくやっていけそうでよかった。

 ただ気がかりなのはフェンリルの仲間を襲ったっていう魔法使いのことだ。

 フェンリルの支配領域と知らずにおそった?だとしても何のために。

 わからない

「どうしたんだい?何か考え事かい?」

 パキラさんが両手にお肉が刺さった串をもってやってきた。

「ほれ、今日の主役なんだからどんどん食べな」

 そういって持っている串をわたしに手渡す。

「ありがとうございます」

 わたしが受け取ったのをみると、パキラさんは「それで」と口を開いた。

「何を考えていたんだい?」

「フェンリルの仲間を襲ったっていう魔法使いについてです」

「なるほどね。実はそのことについてちょっと思ったことがあるんだ」

「その話、我も聞いてもよいか?」

 振り返ると、そこにはたれか何かが口についたフェンリルがいた。

「たしかにあんたもこの話を聞く権利はあるね。思い出したんだが、その魔法使いは黒いローブで全身は見えなかったが体の動きから察するにおそらく女だろうね。そいつはどうやら何かを探しているようだった。それが何かまではわからない。ただ今思えばそいつはそこがフェンリルの支配領域だと知っているような感じだった」

「それはどうしてですか?」

「強い生物がいると聞いたがそいつはどこにいるかと聞いてきたんだ。そんときは森にはそんな奴らがいるから村人は近づかないようにしているといったんだが今思うとその強い生物はあんたを言っていたのかもな」

 フェンリルが目的だったってこと?いったいなんでなんだろう

「あたしにもその理由はわからないただ注意するべき点として、そいつはなんて事のない会話をしているだけなのにとらえどころのない雰囲気をまとっていた。まずまちがいなく強者だね」

 強い魔法使いか。わたしが知っている中で強い魔法使いと言えばアルメリアさんだけどアルメリアさんがそんなことをするとは思えないな。

「なるほどな。我に用がある理由は我にもわからんが次は何かしようものなら今度こそ仕留めてくれるわ」

 そういってフェンリルがうなり始めたところで、パキラさんが「それじゃ」と手をたたいた。

「この話はここまでにして二人とも楽しもうじゃないか」

 それもそうか。せっかくのお祝いだもんね。

「わかりました。よーし!いっぱいたべるぞー!」

「その意気その意気」

「我ももう少し村の者たちと親睦を深めておくとしよう」

 そのあともお祝いは勢いを落とすことなく、むしろどんどんヒートアップしていって、結局夜が明けるまで続いた。

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