第28話 村の現状

 パキラさんに案内されたのは部屋の端のほうにあるスペース。とはいっても木の板を壁代わりにして仕切っているだけだけど。

 そこには大きめのテーブルと、それを囲むように椅子が置かれている。

 パキラさんはそのうち一つの椅子に腰かけた。

「カルミアも座りな」

 そういわれてパキラさんの正面の椅子に座る。

「さて、それじゃあさっそく状況を説明しよう。まず今この村が魔物に攻め込まれているってことはアジェガから聞いているかい?」

「はい。だから助けを探していると」

 わたしの返事にパキラさんはうなずく。

「いままでこの村に魔物が攻めてくることなんてめったになかったのに奴らは急に攻めてきたんだ。だがそのへんの魔物程度ならあたし一人でどうにかできる。だから最初は何とかなるだろうと思っていた。しかし奴らを統率していた奴が問題だ。奴らを統率していたのはフェンリルだ」

 その言葉に思わず椅子から立ち上がる。

 !!フェンリル⁉

「フェンリルってあの⁉」

「ああ、そうだ」

 まさかそんな。

 以前呼んだ本でフェンリルはオオカミのような姿をした魔物でめったに姿を現さないことで有名だ。

 その実力はとんでもなく、前に戦ったオーガジェネラル並の実力があると言われている。

 そんな魔物がこの村に。

「流石のあたしでもフェンリル相手じゃね。昔戦ったことがあるがあれは生きた災害だ」

 フェンリルと戦ったことがあるってどういうこと?

「滅多に人に姿を見せないフェンリルがどうして・・・」

「さあね。それはわからない。だか攻めてきたことは事実だ。もちろん抵抗はしたさ。けど奴の能力なのか奴が従える魔物も並の魔物以上の力を持っていて、村の自営団じゃ太刀打ちできなかった。やっとの思いであたしたちはここに逃げ込んだというわけさ」

 『知識の楽園』によると、フェンリルには味方の能力を上昇させる能力があるらしい。個でも十分な強さなのにこんな能力もあるなんて。

「別の村に逃げるという手は取らなかったんですか?」

「あいてはフェンリルだよ。大勢で逃げたら目立ってかえって危険だ」

 たしかに。アジェガさんの馬の扱いが早くて忘れていたけど街から村までの距離を歩いていこうと思ったら数日はかかってしまう。

「でもそれならアジェガさんはどうして?」

「アジェガの天稟は『運び屋』、馬の扱いに関しては村随一でね。だからこそ助けを求める役を任せたんだ」

 『運び屋』と言ったら馬車などの移動手段の扱いに特化した天稟だ。

「ところで村に来た時は魔物の気配はしなかったんですがどういうことなんですか?」

「奴らは昼は森の奥に身を潜め、夜になったら攻めてくる。おそらく今夜もやってくるだろう。村の現状からしておそらくあと数日したらここもバレるだろう」

 ゴクリ。

 余裕があるとはもちろんおもってはいなかった。けどそれにしても早いな。

「これが今のあたしたちの現状だ。ここまでで何か聞きたいことはあるかな」

 相手はフェンリル。オーガジェネラルと戦った時より強くなったとはいっても余裕をもって勝てる相手かというとそんなわけない。

 ましてそのほかの魔物の相手もしながらなんて。 

「この村に戦える人はどのくらいいますか」

「あたしを含めて3人ってところだね。けが人を含めたらもう少しいるが、なにせもともと戦いが少ない村だからね。そこまで数は多くないよ」

 なるほど。わたしがフェンリルの相手をしている間にそのほかの魔物を対処しておいてくれたらと思ったけどそうはいかないか。というか相手は味方を強化してくるんだった。

 あ!だったら。

 わたしは一つ考えが浮かんだ。

 となるとまずは。

「あの!これをよかったらけがをした村人に使ってください!」

 わたしは収納書から取り出した回復薬をいくつか渡した。

 それをみたパキラさんは目を見開いた。

「これはさっきの。い、いいのかい⁉」

「はい!」

「助かるよ!」

 パキラさんは入り口で待っていた村人に回復薬を渡した。

「これをけがした奴らに使っておくれ」

 回復薬を受け取った村人は驚きながらも走っていった。

「さて、他に何か聞きたいことはあるかい?」

「いえ、大丈夫です」

 わたしの返事にパキラさんは「そうかい」と頷いた。

「さ、じゃあメシにしよう!腹が減ったら戦えないだろう?」

「え、でも食料は貴重なんじゃ?」

「たしかに無駄遣いはできないが、わざわざ村を救うために来てくれた人にふるまわないのは無礼すぎるだろう?」

 で、でも・・・

「若い子が遠慮してんじゃないよ!ほら!返事は?」

「は、はい!」

 それを聞いたパキラさんは満足そうにうなずいた。

「よし、じゃあちょっとまってな。準備するから」

 パキラさんはそういって出ていった。

 さて、わたしも準備をしよう。

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