第16話 なんとか脱出できました

 オーガジェネラルはわたしのことに気づいているようだが、わたしをとるに足らない存在だと思っているのか二人ほど警戒されてはいない。

 それはわたしの実力が足りていないということだけど、今は助かる。

 オーガジェネラルは鋼よりも固い皮膚に加えて、毒などの状態異常にならないという特徴がある。だからこそ二人は魔法で攻めたようだが、あの体には防御魔法が施されておりオーガジェネラルが魔力を流す限り有効打とならない。

 わたしは魔法書を開く。今からやるのはわたしだけの戦い方。

 わたしは『写本』で魔法書の数を増やす。

 魔力を込めると魔法書が輝きながら宙に浮き、魔法陣が出現する。

「『エヒュリス』!」

 紫と緑の光の粒子がオーガジェネラルを包み込む。

 これは相手の魔力を吸収する魔法。それだけ聞くとすごく強い魔法のようだけど

、回復の効率は魔力回復薬のほうがいいしそもそも習得が難しい。魔法書になったらほとんど回復しないからいよいよ誰も欲しがらない。

 けど『写本』で数を増やした分、吸収する魔力の量も多くなっている。もちろん使うのにも魔力を必要とするから『写本』の魔力のことも考えるといつか限界は来る。でもまだまだいけるくらいには回復している。

 絶えず魔法書を使用し、絶えず『写本』し続ける。

 魔力が減ったオーガジェネラルは鎧に流す魔力も少なくなってきた。

 さらにもう一冊。

「『イルスタ』!」

 光の槍がオーガジェネラルめがけて飛んでいく。

 二人もすぐさま攻撃を開始する。

「『ハガル』!」

 シュロさんの氷の斬撃が霰とともに降り注ぐ。

 そこにアルメリアさんが魔法を放つ。

「『ソーリガン』!」

 アルメリアさんが出した茨によってオーガジェネラルが拘束される。

 しかし攻撃ははじかれ、拘束はすぐさま解除される。

「やっぱそう簡単にはいかないか」

 シュロさんが残念そうにつぶやく。

「でもさっきよりは効いている。このままいけば」

 ここからは消耗戦。

 わたしは適度に移動しながら魔力を吸収していく。それに合わせてシュロさんが攻撃を放ち、アルメリアさんは動きを封じようとする。

 どれくらい時間がたっただろうか。

 オーガジェネラルの動きが目に見えて鈍ってきて、攻撃も少しづつ通るようになってきた。

 このまま倒せてしまうんじゃ。

 しかしその考えは甘かったと痛感する。

 オーガジェネラルの体が赤く上気し1.5倍近く大きくなる。

 どういうこと⁉減っていた魔力がいっきに上昇している⁉

 もはや減らす前よりも明らかに力が増している。

  《狂鬼乱舞》:追い詰められたときに発動する。

         すべての能力が一時的に上昇する。

 その時、それまでシュロさんとアルメリアさんにたいして攻撃をしていたオーガジェネラルがわたしのほうを見た。

 やばい!

 そう思った時にはすでにオーガジェネラルの攻撃がわたしに迫っていた。

 前に二人に放った雷の斬撃だけど、雷の色は黒、さらにさっきよりも明らかに威力が高い。

 とっさに壁を張る。だけどその壁もまるでクッキーを割るかのようにあっけなく壊されていく。

 やられる!

 そう思った時、すぐさまシュロさんがわたしの前に飛び出す。

「『エオルフ』!」

 シュロさんの体が結晶のようになり光を放つ。

 『エオルフ』は戦士職が使う技の一つ。

 その効果は発動中すべての攻撃を引き受けるというもの。

 現にわたしに向けられていた攻撃をシュロさんが肩代わりしている。

 オーガジェネラルの攻撃が終わる。

「大丈夫ですか⁉」

「ああ、アルメリアにバフをかけてもらったからな」

 そうはいいながらも息は絶え絶えになっている。

「すみません」

「いや、これで脱出できる。」

 どういうことだろう

「こっちよ!いそいで!」

 アルメリアさんが呼んでいる。

「いくぞ!そろそろ時間になるはずだ!」

 いつのまにかわたしが戦い始めてからまもなく1時間になろうとしていた。

 オーガジェネラルは攻撃の反動で体制を立て直そうとしている。

 そのすきにわたしたちは出口に向かって走り出した。

 後ろからオーガジェネラルの大きな声が聞こえてくる。

 あの体格ではここまでやってこれないだろうけど急ぐに越したことはない。

 目の前にあの罠の壁が見えてきた。

 思った通り守りが薄くなっている。

 アルメリアさんとわたしが一緒にありったけの魔力を放つ。

 二人の魔力に耐え切れなかった壁は崩壊し、わたしたちは外にめがけて走り始めた。

 道中にも再び出現していた魔物を避けながら進んで、やっとの思いでダンジョンの外に脱出した。

「ははは、やった!脱出したぞー!」

「何とかなった・・・みたいね」

 一気に力が抜けた私たちはその場に座り込んでしまった。

 外はすでに暗くなっていて空には星が輝いている。

「今日は二人とも、ありがとうございました!」

 わたしがそう言うと二人は「こちらこそ」といった。

「カルミアがいなかったらわたしたちはとっくに死んでいた。礼を言うのはこっちのほうだよ。ありがとう!」

「アルメリアの言う通り、カルミアがいてくれてよかった。ありがとな!」

 しばらく休んだ後わたしたちはなんとか村に帰り着いた。

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