第6話 臨時休業です

 シュロさんとアルメリアさんに魔法を教えてもらってから数日がたった。

 あの日以降、お客さんが来ていないときは魔法に関する本を読んだりして、閉店後に魔法の練習を続けている。

 シュロさんとアルメリアさんはしばらくこの村に滞在する予定らしい。

 なんでも、最近この村の周辺でダンジョンが多く生まれているとか。冒険者にとってはおいしい話なんだろうけどなんだかきな臭いなあ。

 とはいえ、村のお店に冒険者の人が良く来てくれるから、わたしとしてはうれしいことでもあるんだけどね。

 フリージアはここ最近のダンジョンでの活躍がすごいみたいで、冒険者の間でも結構な有名人になっているらしい。

 そんなフリージアは今何をしているかというと・・・・・・わたしの家でご飯を食べている。

 昨日閉店後に急にきて『今日カルミアの家に泊めて!』って言ってきたんだよね。

 理由を聞いたらパーティーへの誘いがしつこくて家の周りにも勧誘の人がいるらしい。普通にプライバシーの侵害だと思うな。

「今日もダンジョンに行くの?」

 わたしの質問にフリージアは「いや」といった。

「今日は休みにして、カルミアと遊ぼうかな」

 いや、わたしも仕事が・・・まあいいか。

「わかった。じゃあ今日はお店を休みにするから久しぶりに一緒に遊ぼうか」

「やった!じゃあまずは市場に行こうよ!」

 フリージアに手を引かれてわたしたちは村の市場に向かった。

 市場は村の広場にあって、村の交流の場にもなっている。

「ここは昔と変わらないね~」

 昔ってそんなに時間たってないでしょ。

「そうだね。小さいとき、ここで泣いているフリージアに初めて会ったんだよね」

「ちょっと!その話はいいでしょ!まあでも、あの時カルミアが私を助けてくれたから、カルミアとこうして親友になれたんだよね。そう考えたら一つの思い出でもあるのか」

「お!フリージアとカルミアじゃないか!久しぶりだね!」

 野菜を売っているお店の前で突然そう声をかけられた。

「フクシアさん!お久しぶりです!」

「お久しぶりです!」

 フクシアさんは家の畑で採れた野菜を毎日こうして市場で売っている人で、昔からわたしたちのことを気にかけてくれるいい人だ。

「二人が一緒に歩いてるのなんて久しぶりな気がするな。ほれ!これでも食べていきな!」

 そういってフクシアさんはわたしたちにキュウリを2本分けてくれた。

「「ありがとうございます!」」

「気にしなさんな。若者はしっかり食べなきゃ」

 わたしたちはフクシアさんにもう一度お礼を言って店を後にした。

「このキュウリおいしいよ!カルミアも食べなよ」

 わたしはもらったキュウリをかじった。

「あ!おいしい。とれたてなのかすごくみずみずしいね!」

「でしょ!やっぱフクシアさんとこの野菜はおいしいなあ」

 しばらく歩いていると、村唯一の服屋さんが見えてきた。

「あ!これかわいくない?フリージアに会うと思うんだけど」

 そういってわたしは赤いワンピースをフリージアに見せた。

 フリージアは「そうかな~」と照れ笑いを浮かべた

「あまり普段こういうの着ないもんな~」

「せっかくだし来てみない?」

 わたしの提案にフリージアは「じゃあさ」と口を開いた。

「おそろいのをカルミアも着ない?」

「いいね!そうしよう!」

 ということでわたしはフリージアにさっき選んだ服を、フリージアはわたしに水色のワンピースをそれぞれ贈りあった。

 せっかくだから、店で着替えることにした。

「うん。やっぱり似合ってるよ!」

「カルミアだって、かわいいよ!」

 えへへ、とわたしたちは一緒に笑った。

「あ!そうだ!渡したいものがあるんだった」

 ?なんだろう?

「じゃーん!」

 そういってフリージアが見せたのは一つの指輪だった。

「この間ダンジョンで見つけたんだ。わたしも同じのを持ってるんだよ」

 へーきれいな指輪だなあ。

 指輪は細かい装飾が施された銀色のリングに一つの宝石がはめ込まれている。これは・・・ガーネットかな。

「左手を出して」

 なんだろう?

 わたしは言われるがままに左手を出した。

 するとフリージアは自分の手をわたしの手に添えると、もう片方の手でわたしの指に指輪をはめた。

「私からの贈り物。気に入ってくれた?」

「うん!大事にするよ!」

「よかった。さ、いこう!」

 そのあともフリージアといっしょにいろんなところを見ているといつの間にか日が傾いて夕方になった。

 わたしたちはわたしのお店に戻るために来た道をゆっくり戻っている。

「いやー遊んだ遊んだ。楽しかったね!」

 夕日に照らされながらフリージアはそういった。

「そうだね!」

 わたしはフリージアの背中を見ながらそう答える。

 そこで、わたしは足を止めた。

「ねえフリージア。本当はなんでわたしを遊びに誘ったの?」

「どういうこと?ただ一緒に遊びたかっただけだよ」

 フリージアは振り返らない。

「ごまかさないで。なんか今日いつもと違うよ。いつもはもっと好き放題やるのに今日はわたしに気を使ったようなかんじだったじゃん」

「それは、目立ったらほかの冒険者に見つかっちゃうからね」

「でも今日ほかの冒険者にとたくさんすれ違ったけど、別に変装していたわけじゃないのに誰もフリージアに勧誘してくる人はいなかったよね」

 それに実は一つ気になっていたうわさがある。

「フリージアがどこか偉い人から勧誘を受けたって噂と名に関係があるの?」

 そこでフリージアも足を止めた。

 「はあ」と深いため息をついた。

「ごまかしきれなかったか。でも言わなくてもそのうちばれるだろうし、私から言ったほうがいいよね」

 フリージアが振り返った。

「私ね。王命で勇者と一緒に魔王討伐に行かなきゃいけないの」

 逆光でよく見えない彼女の顔に光る筋が流れていたのは見間違いではないと思う。

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