第4話 魔法、教えてください!
開店してしばらくすると、カランカランとドアベルが鳴る音がした。
昨日購入された本を補充していたわたしはその音で入口の方に顔を向ける。
入ってきたのは男女の二人組。服装的に冒険者の人かな?
黒い髪の毛を短く切りそろえた男の人はダンジョンなどで光を反射しないように黒く染められたプレートアーマーを着ていて、背中にはさやに収められた長剣を背負っている。
ウェーブのかかった赤い髪の毛の女の人は魔法職の人が良く身につけている白色のローブを着ていて、手には先端に赤い宝石が付いた杖を持っている。
戦士職と魔法職のパーティーってところかな。
どちらもわたしよりは大人って感じだけど、せいぜい20代くらいだろう。
そもそも冒険者は自分の体を使う職業だからそれなりに若い人が多い。
逆に言えばその中で活躍している年配の冒険者はそれだけの実力者ってことだけど。
二人は何か目当ての本があるのか話し合いながら本棚を眺めている。
「いらっしゃいませ!何かお探しの本がありましたらお気軽にお聞きください!」
わたしが近づいてそういうと、それに気づいた女の人が「それなら」と話し始めた。
「聞きたいんだけど、この周辺に生息する魔物に関する本ってあるかしら」
「それでしたらこちらのほうにあります」
わたしは二人を目当ての本が置いているお店の入り口近くにある冒険に関係する本をまとめた棚に案内する。
ダンジョン目当ての冒険者が多いから、ダンジョン関係の本は入り口近くにまとめてみたけどそれでも見つかりにくいとなるともっと目立つようにした方がいいのかな。
棚の前に来た二人は「ありがとう」といってどの本がいいかを選び始める。
わたしは、お店の中には今はまだほかにお客さんもいないので二人に話しかける。
「お二人は冒険者の方なんですか?」
迷惑じゃないかなって思ったけど二人はそんな雰囲気は見せずに答えてくれた。
「ああ。最近この村に来たばっかりでな」
「だからまずはどんな魔物がよく出現するのかについて調べようと思ってきたのよ」
なるほど。
やっぱりこの二人は冒険者の人なんだ。
そこでふと一つの考えが思い浮かぶ。
でも、どうしよう。さすがにお客さんにそんなことをお願いするのはな・・・
だけどほかにあてがあるわけじゃないし、一か八かお願いしてみようかな
「あのー。折り入ってお願いがあるんですけど」
恐る恐るそういうと、二人は「ん?」といって首をかしげながらわたしの方を見た。
「わたしに魔法を教えてくれませんか?」
『賢者』で魔法をどうやったら使用することができるのかについてはわかるんだけど、実際に使っているのを見ないとよくわからないことも多い。
だから実際に教えてほしいんだけど。
断られることも考えたけど、二人は「なるほどな」といって顔を見合わせる。
「魔法ならアルメリアの方がいいだろうが、アルメリア、どうする?」
男の人にアルメリアと言われた女の人は「そうねぇ」と少し考えた後「ええ。構いませんよ」といってほほ笑みながらわたしの顔をみた。
やった!
「ありがとうございます!!」
「いいえ。気にしないで」
よかったこれで魔法を教えてもらうことができる。
その時、わたしたちのやり取りを聞いていた男の人は「じゃあさ」とわずかににやりとした表情を浮かべて切り出した。
「教える代わりにこの本値引きしてくんない?」
なるほどそう来たか。
男の人の提案にアルメリアさんは「ちょっと、シュロ!」と怒っているけど、わたしのほうからお願いしている以上、むこうもお願いするのはおかしな話じゃないよね。
仕方ない。
わたしは「はー」と息を吐いてシュロと呼ばれた男の人の方を見た。
「いいですよ」
わたしの返事を聞いたシュロさんは断られると思っていたのか一瞬驚いたような表情を浮かべながら笑顔で喜ぶ。
「まじで!よっしゃー!」
冒険者はうまくいけば一気に儲けることができるけれど、基本的には命がけの戦いをする割に儲けは少ない職業だ。
だからこそ少しでも出費は避けたいんだと思う。
そのやり取りを見ていたアルメリアさんはシュロさんとは反対に心配そうな顔を浮かべながらわたしの方を見る。
「いいの⁉お店の売り上げが下がっちゃうんじゃ」
まあ、たしかに値引きした分の売り上げは下がっちゃうんだけどね。
だけど。
「大丈夫ですよ。わたしのほうからお願いしているんですから」
わたしがそう言うと、アルメリアさんはまだ心配しているようだけど少しは安心したかのような顔になって口を開いた。
「そう?じゃあお言葉に甘えて。ありがとうね」
微笑んでそういうアルメリアさんにわたしは「こちらこそありがとうございます」と返す。
なんにせよこれで魔法を教えてもらうことができる。
わたしは二人と一緒にカウンターに来て、会計の準備をする。
そんなわたしにシュロさんは「そういえば」と話しかけてきた。
「オレたちはいつごろに教えに来ればいいんだ?」
そうだ、時間をしっかりと決めておかないと。
二人は周辺の魔物に関する本を買いに来たってころはこれから依頼をこなしに行くんだろうし、わたしもまだ仕事が残っている。
二人がいつまで依頼に出ているのかはわからないけれど、冒険者の多くは暗くなって視界が悪くなるのを避けるために夕方ごろに帰ってくるから。
「お店が閉まった後とかでもいいですか?」
わたしのお店もちょうど夕方ごろには閉店になる。
これなら両方の都合に会うんじゃないかなって思ったんだけど。
わたしの提案にシュロさんは少し考えた後、口を開いた。
「いいぜ!アルメリアもそれでいいよな?」
そう聞かれたアルメリアさんは「ええ。今日の依頼は夜までかかることはないでしょうし」といって頷いた。
それをきいたシュロさんは「そういうことだ」とわたしの方を見る。
見た感じシュロさんが仕切っている感じだけど、このパーティーのリーダーなのかな?
なんにせよこれで時間も決まった。
「それじゃあお願いします。はい!こちらがお買い上げの商品です!」
わたしは会計が済んだ二人が買った本を差し出した。
「ありがとな」
「本当にどうもありがとう」
二人は本を受け取ると「それじゃあまた後で」といってお店を後にする。
すると二人と入れ違いになる形でカランカランとドアベルが鳴る。
それと同時に勢いよくフリージアが店に入ってきた。
「やっほー。来たよ!さっきの人たちお客さん?」
「そうだよ。冒険者らしいけど知ってる?」
同じ冒険者ならもしかしたら面識があるかもしれない。
そう思って聞いてみると、フリージアは「うーん」と顔をかしげて少し考えた。
「あ!思い出した!昨日、協会であった人だ!このあたりに来たのが初めてみたいで魔物の分布とかを知りたがっていたからこの店のことを教えたんだ」
そうだそうだとフリージアはしきりに頷く。
なるほど。あの二人はフリージアの紹介だったんだ。
さらに聞いたところフリージアはほかにもいろんな冒険者の人たちにこのお店のことを紹介しているらしい。
ありがたいけど、そうなるといよいよ冒険関係の本を充実させた方がいいかもな。
なんてながらフリージアの顔を見る。
「それで?フリージアは何か買いたい本があるの?」
「実は今からダンジョンに行くんだけど、トラップが多いダンジョンみたいだから罠に関する本とかないかなって」
なるほど、今からダンジョン攻略に行くんだ。
ダンジョンはいつの間にかできていつの間にか消えるいまだ解明されていない不思議な存在だ。
学者の中にはダンジョンは同じくその詳細が不明である魔王に関係しているんじゃないのかという人もいる。もちろん研究が進んでいない以上ただの推測ではあるんだけど。
ダンジョン内部の構造は一つ一つ異なっていて、共通しているのいくつかの部屋に分かれており、お宝が眠っていることもあるということ。
そして、内部にはさまざまな魔物が生息しているということ。
これもダンジョンが魔王に関連しているんじゃないのかと言われている理由の一つ。
そんなわけでダンジョンが出現したら冒険者や国の調査団が調べに行くんだよね。
もちろんその攻略は命がけだけど、中で手に入れたものはすべて自分のものにできるということで冒険者の間では結構おいしい話として話題になっているらしい。
そんなダンジョンが数多く出現しているんだからこの村にたくさんの冒険者がやってくるのもうなずける。
これからフリージアが探索に行くダンジョンがトラップが多いってことがわかっているってことはすでに探索されたことがあるダンジョンなんだろう。
そもそも冒険者になりたての人が未踏破のダンジョンを攻略するのは命知らずのすることなわけだし。
「というか、わたしが言うのもなんだけどトラップを探知する魔法具を買ったほうが確実なんじゃない?」
トラップはダンジョンにはたびたび見られる仕掛けだから、それに対応した魔法具もつくられている。
わたしのお店では扱っていないけど冒険者協会に行けばあると思うけどな。
だけどフリージアは恥ずかしそうにはにかむ。
「いやー、その、まだ冒険者になったばかりだから、お金がね」
あー、そういうことか。たしかに魔法具は基本高いからなあ。
それならわたしの鑑定機はどうなんだという話だけど、これはこの村で商業を始める人に村が提供してくれるもの。
田舎の村だからね。人口を減らさないために村が頑張っているらしい。
なんにせよお客さんとして来てくれた以上しっかりと仕事はしないと。
「罠に関する本ならこっちだよ」
わたしはフリージアを、シュロさんとアルメリアさんと同じく冒険関連の本棚のダンジョン攻略について扱ったコーナーに案内した。
案内されたフリージアが「どれにしようかな」と悩み始めたのを見たわたしは「そうだなぁ」と一緒になって考える。
「これなんてどう?『ダンジョン攻略法④罠について』。これなら持ち運びやすいし、ほかのものよりも安いよ」
そういってわたしはポケットに入るくらいの大きさをした初心者冒険者向けの本をお勧めする。
このシリーズは仕入れるときに仕入れ先の店長さんが新米冒険者にはお勧めの一冊だと紹介してくれたもの。
今のフリージアにはピッタリなんじゃないかな。
わたしが進めた本を見たフリージアは笑顔でうなずく。
「じゃあそれにしようかな」
「かしこまりました」
わたしがそう言うとフリージアは急に目を丸くする。
「え、どうかした?」
「いや、急に敬語になってびっくりしてさ」
いちおうお客さんなわけだしと思ったんだけどな。
とはいえわたしもフリージアに敬語で話しかけるのはなんだかくすぐったいからフリージアがそういうならやめようかな。
なんて考えながらわたしは本をもってカウンターで会計を行う。
わたしが金額を提示するとフリージアは財布の中からその分のお金を手渡す。
それを受けとって代わりにわたしは会計の済んだ本をフリージアに手渡す。
「ありがとね!」
そう言ってフリージアが本を受け取ったとき、時間を告げる鐘の音が鳴り響いた。
それを聞いたフリージアは「もうそんな時間なんだ」といってお店を後にしようとする。
あ!そうだ!
「ちょっと待ってて!」
お店から出ようとするフリージアを引き留め、わたしは急いで二階の居住スペースに向って、あるものをとってまた降りた。
「はいこれ!」
わたしがフリージアに差し出したのは水色の液体が入った数本の瓶。仕入れの時に開店祝いとしてもらった回復薬だ。
わたしが差し出したものを見たフリージアは驚いた表情をしてわたしの方を見る。
「いいの?」
「気にしないで!たくさんあるから」
仕入れ先の人が気さくな人でたくさんもらったんだよね。
たとえわたしが冒険を始めたとしてもそうそう使い切れるとは思えない。
わたしの返事を聞いたフリージアは回復薬を受け取って満面の笑みを浮かべながら回復薬を抱える。
「ありがとう!一生大事にするね」
いや、使ってよ。
なんて思いながらもそれが面白くておもわず笑ってしまいそうになるのを抑えながら笑顔で手を振る。
「気を付けてね」
「もちろん!いってきます!」
そういってフリージアは笑顔で手を振りながらお店を後にする。
「いってらっしゃい!」
フリージアが出て行って少ししたら少しづつお客さんの数が増え始めた。
さて、わたしも仕事を頑張って、お店が終わったら魔法を教えてもらわなきゃ。
そう気持ちを切り替えてわたしは仕事に戻った。
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