第3話 本当にできた!
おじいさんから魔導書をもらった日の夜。
わたしはひとまずこの魔導書を読んでみることにした。
お店の二階にあるわたしの居住スペースのベッドに腰かける。
照明の魔法具が明るく照らす部屋の中でわたしは魔導書を開いた。
魔導書の中には最初にその天稟がどういうものなのかが記されていて、そのあとは文字が一つの魔法のように記されている。
それはその天稟を文字化したものだと思われているけど、適性のない人にはそもそも読めない上に、適性のある人が読むと文字が消えてその人の力になる。
だから解読しようにもできないらしい。
わたしが開いた魔導書はどうやら『魔導士』についての天稟が記されたものらしい。
『魔導士』は魔法職の冒険者にとっては強力な天稟だけど、当然魔法使いの適性がなきゃ授かるなんてことはない。
わたし自身は魔法の練習なんてしたことがないから使うことができない。
そもそも魔導書を読めていること自体がおかしいけど、だからといって『魔導士』の天稟を授かることはないはず。
けれど、読み終わった後に体に何か変化が起きたのを感じた。
『本好き』とはまた別の何かがわたしの中に刻まれるのを感じる。
これはいったい・・・
まさか⁉・・・いや、ないない。
思い浮かんだ可能性をすぐさま否定する。
そうは思いながらも一応自分の能力を確認してみるために鑑定機を使用する。
天稟授与式の時の水晶でなくても、簡潔な本人の能力であれば鑑定機でも調べることができる。
だから冒険者たちも自分の能力の変化を確認するために鑑定機を使用することがあるらしい。
鑑定機に文字が表示された。
天稟:『本好き』、『魔導士』
ほんとに増えてる!
やっぱり、『本好き』の対象には魔導書も含まれるんだ。
ちなみに『魔導士』の詳しい内容は
①魔力上昇(強):魔力の量をかなり増加する
②詠唱破棄:魔法を使う際に詠唱する必要がなくなる
③魔力回復速度上昇:魔力が通常よりも早く回復する
④多重詠唱:複数の魔法を一度に発動できる
⑤魔法効果強化:魔法の効果が上昇する
というもの。魔法使いにとってはうれしいことしかない天稟だ。
というか『本好き』の対象に魔導書も含まれるってことは、もしかして『製本』で魔導書をつくることもできるのかな。
魔導書はどのようにして誕生するのかわかっていない。
基本的にダンジョンの最奥でまれに見つかるもので、人類がつくろうと思って作ったという例はいまだ存在していない。
だからさすがに無理だとは思う。
とはいえ気になりはする。
試してみて損はないだろうし早速試してみることにする。
わたしは目を閉じてどんな天稟かをイメージする。
『製本』はたしかにどんな内容なのかを詳しくイメージしたほうが正確に作り出すことができる。
だけど、もしそうでなくてもある程度は能力自体が補ってくれるから、本当に魔導書をつくり出せるとしても天稟を文字化する必要はないはず。
イメージが進み、魔力が減るのを感じる。
うっすらと目を開けると、わたしから減った魔力が淡い光の粒子となり、少しずつ一冊の本を形作っているのが見える。
もう少し。
イメージを加速する。
それに伴って魔力の減りも早くなった。
魔力が底をついたのと同時に、わたしの意識が暗転する。
わたしは倒れる間際に一冊の本が床に落ちるのを見た。
目が覚めると、すでに朝日が小さな寝室に差し込んでいた。
わたしは固い床から体を起こす。
体中が痛い。
あれ?なんでわたし、ベッドがあるのに床で寝ていたんだろう?
たしか魔導書を作ろうとして・・・あ!魔導書!
さがすと床に見覚えのない一冊の本があった。
豪華な装飾などは一切ない簡素な青い表紙をした本
間違いない、『製本』で作られていた本だ。
さっそく開いてみる。
最初の方には昨日読んだ魔導書と同じくどんな天稟なのかについての説明が書かれている。
どうやらイメージしたとおりの天稟に関する魔導書みたい。
てことは本当につくることができたんだ!
でもなんで倒れたんだろう。
まぁいっか。とりあえずまずはこの魔導書を読んでみよう。
魔導書を開く。
読み進めるたびにそこに記されている文字が消え、わたしのなかに入ってくるのを感じる。
わたしが作ったのは『賢者』という天稟。
うまくいっていたら増えているはず。
早速鑑定機を使用する。
そこには予想通り新しく『賢者』が追加されていた。
わたしが作った『賢者』は
①知識の楽園:あらゆる知識を得ることができる
②並列思考:複数のことを一度に考えることができる
という内容の天稟。
この天稟を使ってわたしが倒れた原因を調べてみると、魔力切れによるものだといわれた。
どうやら魔導書を『製本』する場合は莫大な魔力を消費するらしく、『魔力上昇』で増えた魔力でぎりぎり足りるくらいらしい。
最初の魔導書が『魔導士』でよかったな。
『魔力上昇』がなかったら作ることはできなかったよ。
魔力は使っているうちに少しづつ増えていくものだからいずれは倒れなくても作れるようになるかもしれない。
さらに分かったこととして、『勇者』など、その時代に一人だけしか存在しない一部の天稟は『製本』でも作成することはできないらしい。
でもこれならもしかしたらわたしも冒険者になることができるかもしれない。
いずれはフリージアと一緒に。
とはいえフリージアは天稟だけじゃなく自分でも努力を欠かさないからこそ強いんだもんな。
わたしがいくら天稟をふやしても、それを使えるだけの実力がないと宝の持ち腐れみたいになっちゃうから、わたしも自分の実力をのばさないとね。
そのためにはやっぱり練習するしかない。
とはいえわたしはまだ冒険者として登録していないから依頼を受けることはできない。それにいくら何でもせっかく始めたお店をすぐに閉店するのは応援してくれた人たちに申し訳ない。
わたしとしてもさすがに開店してそれほどたっていないのにたたんでしまうのはは気が進まない。
しばらくは閉店後と休日に町の外で練習することにしよう。
あと、お店に来た冒険者にいろいろと教えてもらう。
鐘の音色が時間を告げる。
やばい!そろそろ開店の時間だ!急がないと!
わたしは急いで着替えた後、キッチンにおいてあったパンを加えながら一回へと降りていった。
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