第9話 ダンジョンを越えた勇者
「勇者がこない」
あれからしばらく経つが勇者はきていない。
本当にあのまま追放され野宿をしているのだろうか。
いやあの勇者なら他人の家に忍び込んで寝ているなんてことも、あるいは脅して家を乗っ取っているかもしれぬな。
全くそれではどちらが魔物かわからんではないか。
「あれ? いるじゃん」
姿を見せたのはサキュバスの【リリン】。
サキュバスは人によく似た姿をしているが、後ろに黒く小さい蝙蝠の様な羽が生えて飛行できるのが特徴だ。
人の街に忍び込んで夜な夜な精気を奪い取る魔物、リリンは確かこのダンジョンの先にある人間の街に忍んでいたはず。
そんな彼女が一体なぜここに?
「ちょっとちゃんと仕事してよ」
「なんのことだ?」
咄嗟に放たれる意味のわからない言葉に困惑する。
「なにって、勇者よ勇者。あんたがへましてダンジョンの先に行かせちゃったんでしょ?」
「いや、そんなことはしていないが」
「嘘よ、じゃあなんで勇者がこの先の街に現れたっていうのよ!?」
「なん、だと……?」
勇者がこの先の街に現れただと?
そんなはずはない、しっかりとここで何度も殺しているんだから。
「人違いではないか?」
「人違いじゃないわよ! 私がちゃんと見たんだから。それに次のダンジョンボスの【オークリーダー】がやられちゃったのよ」
「なん、だと……」
確かにそれならば勇者であるか。
だがどうして勇者が……。
ここを抜けないと先に進めないはず。
「街が勇者フィーバーで私もあの街から出てきちゃったわ。勇者に見つかっちゃったら怖いし」
なるほど、そしてここにきたと。
「きましたよ!」
「勇者ではないか」
「え? 勇者!?」
目の前に勇者が現れた。
しかしいつもとは反対側、つまり先の街に繋がる方から現れたのだ。
装備も一新し、さらに強くなっている気がする。
「なぜそちらから現れたのだ」
「あなたのせいでめちゃくちゃ恥ずかしい思いをしましたよ!」
何のことだ、全くわからん。
「あの後始まりの街に戻されたんですけどね、蘇生された後神官に言われたんですよ。『しないといけないと神に言われてるからするけど、追放されてるんだから本当はしたくないんだよ』ってね!」
「自業自得だろう」
神官も大変なんだな……。
「でなんでお前な向こうにいけたんだ、通した覚えはないぞ」
「ふっふっふ、それはですねぇ……知りたい? 知りたいですか?」
あ、ウザイな。
「仕方ないですから教えてあげますよ!」
その笑みがウザイ。
が確かに知らなければならないな。
「ここの周りって山に覆われて、唯一ここだけ通れる様になってるんですよ」
そうだ、だからこそここにダンジョンがある。
「でもね、よく考えてください。あの山そんな高くないんですよ。だからですね思ったんです、『ワンチャン登っていけるんじゃね?』てね」
「それはルール違反だろ?」
「ルールってなんですか?」
確かにそうだ、ルールってなんだ。
山を越えれないと思っていたのはこちらのミスだ。
「だからやってやりましたよ! 山、越えてやりましたよ! これは後の世で『勇者の山越え』って伝説が残りますよ!」
くっ、してやられた。
「じゃ、そういうわけで貴方とはお別れです。さようなら! ……ってあれ?」
「すまないがそちら側も扉が閉まる仕様だ」
そういうとみるみる勇者の顔が蒼白していく。
残念だがのこのこ自慢しにきたお前が悪い。
「やめてください? もうあの街には帰りたく――グチョヘニャ!」
さて、どこに運ばれるのか……良かったな勇者、始まりの街に戻れるみたいだ。
ダンジョンから始まりの街に向かう道をいく棺を見て高笑いした。
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