第7話 悪事を働く勇者
「今回はえらく早かったな」
いつものスパンよりも早く勇者がやってきた。
しかも最強装備とやら、ではなく剣も鎧も前よりもさらに強そうだ。
スライム狩りし過ぎてお金がら有り余っていたというところか。
「えぇ、やってやりましたよ」
しかしなんだか元気はない。
顔色もすぐれないというか目つきが悪くなったような気がするな。
「その剣と鎧はどうしたんだ? 前の最強装備とやらとは違うもののようだが」
「フッフッフ……」
なんだ、気持ちの悪い笑みを浮かべて。
そんなに凄い装備ということなのか?
「城の兵士の装備ですよ、剣も鎧も……。気づいたんです、街で売っているよりもこっちのほうが強いとね!」
「おぉ、そうか。ではあの王から支給されたと」
「されるわけないじゃないですか! あのケチ野郎が!」
「ではどのようにして」
「盗んだんですよ! 城に忍び込んで盗んでやりましたよ!」
なんと、ついに盗みまでするようになったか。
もう勇者やめたらいいのに。
「あのクソ野郎、勇者である俺には50Gしか渡さないのに城にはたんまりとお金がありましたよ! この良い装備もたんまりとね! おかしくない? 最初からこれくれればもっと楽にここまでこれたのに、おかしくない!?」
「はあ……」
まあ間違ってはないだろうな。
だけど今までのことをみると、こんな勇者を信用せずに送り出した王が正しいと思うのは気のせいだろうか。
「だから盗んでやりましたよ! きっと今頃大変な事になってるでしょうね! ざまーみろってんですよ!」
本当に勇者やめればいいのに、絶対向いてないぞ。
「それとね、むかつくから他の家にも入ってタンスやら壺の中やら物色してやりましたよ!」
堂々としてるな、もうやけだと言わんばかりだ。
「そしたらね、冷ややかな目をしていたやつがね、目を丸くしてやがるんですよ。びびってやんの!」
そりゃびびるだろう、勇者とあろうものが堂々人の家で盗みをしてるんだから。
「というわけでもうあんなちまちましたスライム狩りをしなくてもよくなったというわけです!」
「それは良かったな」
いや、良くはないんだろうが。
「だから前回また装備を壊されたのは大目に見てあげましょう!」
「そうか」
じゃあこれからも遠慮なくやってもいいということだ。
「じゃあそろそろやろうか」
「ええ、とは言っても前のようにはいかないですよ!」
「それは楽しみだ」
勇者が剣を構えて飛びかかる。
レベルが上がってきているからか流石に前よりも速い。
振り下ろされた剣を腕で防御する。
ふむ、今までならそれで剣の方が折れたが今回はそういうわけにはいかないようだ。
「だが、ダメージを与える程でもないな」
「なっ!?」
剣は皮膚を通さない。
そしていつも通りに拳で腹部を狙う。
「――ブヒョヘ!?」
「ふむ、鎧の方はまだ耐久力がたらんみたいだな」
少し抵抗があったような気はするが簡単に貫く。
まだまだやられることはなさそうだ。
もう勇者と呼べるかはわからんがまた挑戦してこい。
俺は走り去る棺を見送りながら思う。
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