第5話 クレーマー勇者、酒場編
「早かったな」
あれからしばらく、前回のスパンよりもかなり早く勇者がやってきた。
前回の最強とぬかした装備はなく、お馴染みの穴の空いた服を着てに松明を持っている。
「文句をいいにきました!」
またか……コイツは口だけはベラベラと回るからな、今回も長くなるのだろう。
「なんだ?」
「あの! 二回目なんですよ、二回目! 最初の時も言いましたよね!」
「なんのことだ」
さっぱりわからん。
「見てください、わかりますよね! また武器も防具も壊れちゃったんですよ! えぇ、それは見事に使い物にならないぐらいにね!」
あぁ、確かにそうだった。
怒り心頭と言った感じで地団駄を踏んでいる。
「それでまたその格好というわけか」
「あの装備を買うのにどれだけ苦労したか言ったでしょ! スライム何百体ですよ! それをあんな……酷いじゃないですか!」
「自業自得だろう」
少なくとも剣は己の技量が悪いせいなのだ、弱いのを人のせいにしないでもらいたい。
「やり方があるでしょ! 剣だってあなたが避ければ折れなかったし、防具もないところを狙えば壊れなかったはずですよ! あなたならできるでしょ!」
「あぁ、まあ……」
なんだ、めちゃくちゃ言っているようで何故か反論できない。
これが勇者の力なのか。
「ならあなたの努力不足です、謝ってください!」
「それはすまなかった」
くそ、なぜか謝ってしまった。
「だが、帽子はどうした。あの羽が生えた帽子は」
確かあれは無傷のはずだ、何故被っていないのだ。
「ださいじゃないですか! あの羽、小さい天使の羽か知りませんけどださいじゃないですか! 大して防御力が上がるわけでもないのに、恥ずかしさの方が上回りますよ!」
「いや、その服の方がださいが」
確かにあの帽子はださいが、穴の空いた服はもはや犯罪的だ。
「これはあなたのせいでしょ! どうせまた腹を抉られるんだから替えても意味ないじゃないですか!」
「確かに」
納得だ、無駄な説得力がある。
「それで、今日は文句を言うだけで無策できたのか?」
「いえ、ちゃんと策を用意しようとはしましたよ」
そう言って勇者は悔しそうな、苛立ってそうな複雑な表情をする。
「仲間をね、いっぱい連れてきたら流石に勝てるだろうとね……前のコスプレ野郎とは違って、ちゃんと強そうな人が集まる酒場にいったんですよ……」
「いや、お前一人じゃないか」
「そうなんです! 誰一人として仲間になってくれなかったんですよ!」
おぉ、また怒りモードでトーンを上げてきた。
「なぜ誰もついてこなかったんだ」
「この格好ですよ! だれが穴の空いた服に松明を持っただけの奴についてきますか? 向こうは立派な剣や杖とか鎧とか装備しているわけです! もう笑われてめちゃくちゃ恥ずかしかったですよ!」
確かにそんなやつに魔王討伐に協力してと言われても、なんの冗談だとなるな。
「ていうか、勇者ですよ? こんな装備でも勇者なんだから協力するのが当たり前でしょ普通!」
「いや、わざわざ死にに行く様な真似はしないと思うが」
「やってみないとわからないじゃないですか!」
「自分の姿を見てこい、わかりきってるだろうが」
反撃できた、奴が「むむむ」と口をもごもごしている。
謎に達成感があるな。
「それで、言いたいことはそれだけか」
「むむ……」
「では、覚悟はいいな」
「いいでしょう、今日はこの辺で――グニャゴロリッ!」
注文通り服の穴の部分にしてやった。
今日はまだ穴の修理が間に合ってなかったから逃げれたんだけどな。
颯爽と駆けていく棺に向かってそう思った。
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