第4話 ちゃんと努力した勇者

「暇だ……」


 あれから勇者が来ない。

 まあ、来ても死ぬのが目に見えているが来なければ来ないで俺が暇だ。


 暇なら街とか侵攻したらいいんじゃと思うがそれはできない。

 なぜなら俺の仕事はこのダンジョンのボスだからだ。

 ここにいて勇者をうちのめすのが役目、決して持ち場を離れるなどという職務違反は認められないのだ。


「とはいえ、暇すぎるな」


 棺に破壊された扉も綺麗に直したし、宝箱に松明も補充しておいた、出迎える準備はとうに万端なのである。

 何もない無機質な洞窟の一室ですることと言えば、妄想と寝る事、歌を歌うことぐらいだ。


「ラララーラー、ララ〜――」


「今度こそ倒してみせますよ! って……」


「あ……」


 恥ずかしい、めっちゃ恥ずかしい。

 ノリノリで歌っているところに勇者が来やがった、何と言う間の悪さだ。


「え、えーと……あまり歌は上手じゃないんですね」


 いや、恥ずかしい、音痴なのバレた、めっちゃ恥ずかしい。


「ゔ、うん。また懲りずに殺されにきたか」


「あのー、カッコつけてもさっきの光景と歌声忘れませんよ」

 

 キーッ!! クソ! なんかムカつくな!

 弱いくせにイキがりよって!


「ん、よく見れば今回はまともな格好なんだな」


「あっ、気づきましたか? どうです? 街で手に入る最強の装備ですよ! カッコいいでしょ?」


 今回の勇者はきちんと剣をもち、体も鎖帷子くさびかたびらで守られている。

 頭の変な羽のついた帽子は正直ダサいが、本人が

いうのだから街では一番いいものなのだろう。


「この装備を手に入れるの凄く苦労したんですよ、そりゃもうスライムを何百体と倒しましたよ!」


「そうか、それはご苦労」


 それでこれだけ時間がかかったということだな。


「というか、あれ何体いるんですか? 倒しても倒しても全く減らないじゃないですか! びっくりですよ!」


 確かに魔物の数は倒しても全く総数が変わらない、しばらくするとすぐに元通りになるのだ。

 今まで気にしたことはなかったが確かに不思議だな。


「まあ、おかげでたっぷりレベル上げも装備も買えたので良いですけど!」


「ならよかった」


「というわけで、今日こそ勝たせて貰いますよ!」


「うむ、参れ」


 どれだけ強くなったか、見せてもらおうじゃないか!


「ヤァァァァァッ!!」


 うむ、前よりは様になっているじゃないか。


「くらえぇぇぇ!!!」


 だが、まだ動きも遅いし振りも弱い!


「――えっ? グヒァホァッ!!」


 剣はやはり俺の皮膚を斬れずにパキンッと折れ、間抜けな表情をする勇者の腹を俺の拳が防具ごと貫く。


 まだまだ全然足りないな。


 そして見慣れた棺がやはり勇者を連れて帰っていく、もうお前が俺と戦えよと思う。


「ハァ……暇だな……」


 この日、バカにされて悔しかった俺は声が枯れるまで歌を歌い続けた。

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