第3話 仲間を連れてきた勇者
「今日こそ倒してやるぞ!」
「ほぅ、またきたか」
流石勇者、二度死んだぐらいでは諦めぬか。
しかし見た目は前と殆ど変わっていない、ボロボロの服ぐらいは変えてきて欲しいものだ。
変わったのはそうだな、松明に火がついてるところだけか。
「えらく早かったが何か策はあるのか?」
前からまだ三日しか経っていないぞ、そんな短時間で圧倒的にな差を埋めれるはずがないだろう。
「ふっふっふ。実はですね、仲間を連れてきたんですよ!」
「ほう、仲間と」
すごい素敵な笑みでいってくるな、確かに一人よりは二人の方が勝機があるだろうが。
だがそんなに強いものがいるのか、見ものだな。
「出番ですよ、剣士さん」
そういうと勇者の後ろから剣士が出てくる。
銀に輝く鎧に同じく銀に輝く剣、なるほど勇者よりまともらしい。
だが年が若そうだ、勇者よりも小さく幼く見える男だ。
「さあ、いきますよ剣士さん!」
「あ、あのー……」
やる気に満ちた勇者とは反対に剣士はなぜかか弱い声だ。
「何度も言ってますけどこれコスプレなんですよ」
「は?」
コスプレ? コスプレといったかコイツは。
「だからコスプレって何ですか? 剣士の姿なんだから剣士でしょ! その立派な剣を持っているじゃありませんか」
「これは剣の形に木を切って銀色の紙を貼っただけなんですって、何度も言ってるじゃありませんか」
前言撤回だ、コイツは勇者とおんなじだ。
全くまともではない、というか、よく見たら完全に作り物とわかるじゃないか。
「その鎧も作り物だな」
「え? 本当ですか剣士さん!?」
本当に気づかなかったのかこのバカ勇者が。
「これも服に銀の紙を貼ってるだけです」
「まさかー、またまた剣士さんってば。さては相手を油断させるために」
「いえ……ほら」
冗談だと言うことを信じない勇者に証拠だと剣士は服の紙を剥がして見せた。
「まさか、本当に剣士じゃない!?」
「最初から言ってるじゃないですか、それを無理やりここまで連れてきて」
どうやら全て勇者の突っ走りだったようだ、剣士じゃないと分かると目に見えて落ち込んでいる。
「ここに来るまでに気づかなかったのかのか、戦闘とかでわかるだろう普通」
「消耗を抑えるために戦わずに逃げ回ってきたんですよ!」
今堂々と言うことじゃないだろう。
「というか、これどうするんですか!? こんなの前の二の前になるだけじゃないですか!」
「知りませんよ、こっちのセリフです」
剣士のごもっともだ。
「ダメだー、あー! 今回も殺されるー! 嫌だ嫌だ!」
泣き喚く勇者だが全ては自業自得だと言ってやりたい。
が、耳を塞いで叫んでいるので聞こえないだろう。
「ハァ……ハァ……」
ひとしきり泣き叫んで、ようやく落ち着いた様だ。
「で、どうする? 言い残したことがないならもうそろそろ死んでおくか?」
「やだやだ! 死にたくない! あなたわかってないでしょ!? ちゃんと痛いんですよ! めちゃくちゃ痛いんですよ!」
「知ったことではないわ、そうなりたくなけりゃもっと強くなってから来たらいいではないか」
むむむと言葉に詰まる勇者、ちゃんと次はレベルを上げてきてもらいたい。
「ではな……」
「やだやだやだやだやだやだ――ボヒャッ!」
「ハァ……」
なんだか無駄に悪いことをした気になるな、なぜ勇者を倒すのに罪悪感を覚えないといけないのだ。
そしていつも通り、棺が勇者を入れ閉ざされた扉を突き抜けて行く。
「あ、あのー。僕も死ぬんでしょうか……」
恐る恐る聞いてくる剣士もどき。
さて、どうするか……殺すのは容易いが。
いや、なんか哀れすぎる。
「いや、もう行っていいぞ、扉も開いたしな。道中死なんように気をつけることだ」
「はっ、はい! ありがとうございます!」
そう言い残すと尻尾を巻いて逃げ帰っていった。
無事帰れれば良いが、あのバカのせいで死んだとあっては無念すぎるだろう。
「ハァ……これまた直さないといけないんだな」
またポッカリ開けられてしまった扉の穴を見て少し憂鬱になった。
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