第2話 クレーマー勇者現る

「ひどくないですか!?」


 再び勇者が来たと思ったら開口一番そう言い放つ。

 手には松明、皮の防具すらもなく穴だらけの薄い服を着ている。


「何がだ?」


「何がじゃないですよ! 棍棒も壊れ、あれだけ頑張って買った皮の防具も使い物にならなくされたんですよ! 言いましたよね、どれだけ頑張って手に入れたか!」


「あ、あぁ、それはすまなかった」


 なんだ言いがかりじゃないか、ただの言いがかりなのに何故か俺が悪いとさえ思う。

 これが勇者の力か。


「棍棒もないから今度は素手ですよ!? 素手で頑張ってスライムを倒して! あぁ、思い出しただけであのネバネバが気持ち悪い!」


「それは確かに不快な感触だろうな」


 スライムは不定形のゼリー状の魔物、手を入れれば粘り気のある不快感があるだろう。


「でしょ! あなたのせいでそうなったんですよ!」


「いや、それは仕方なかろう。王様からまた資金貰えば良かろう?」


「あのケチ野郎がくれるわけないじゃないですか! 言ったでしょ、50Gですよ? 人類の最後の希望の門出に50G! 見送りのパレードの方がお金かかってますよ? それじゃパレードいらないからその分金寄越せって!」


 王様をケチ野郎とはなんという勇者だ。

 しかし確かに言っていることは正論なんだよ、うん。


「思い出したらまた腹が立ってきた。で、また素手で頑張ってここまで来たんです、何度も死んで大変な思いをしてここまできましたよ人類のために」


「それはご苦労なことだ」


 なんだ勇者らしいところがあるじゃないか。


「でダンジョンなら何か武器や防具があるかと思ったんですよ」


「おぉ、そうだろう。お前のためにそれを置いておいたのだ」


 そう、大変な思いをしているだろう勇者にささやかながらプレゼントを宝箱のなかに入れてやったのだ。


「お前のために……じゃないですよ! 何ですかこれは? 松明ですよ、松明! このダンジョンを照らしているのを適当に取って入れただけじゃないですか!」


「それしかこのダンジョンにないから仕方なかろう」


「棍棒より酷いじゃないですか! バットから逃げ回ってようやく見つけた宝箱、めちゃくちゃ期待して開けたら松明ですよ! その時の絶望があなたにわかりますか?」


 バットは暗いところに生息する小型で空を飛ぶ黒い姿の魔物。


「だがそのおかげでバットを攻略できただろう」


 バットは炎や光を放つものに弱い、つまり松明があれば倒せるはずである。


「いや、これ見てくださいよ! 火、ついてないでしょ!? せめて火をつけてから宝箱にいれてくださいよ、これじゃあただの木の枝ですよ!」


 確かにせっかくの松明に火がついてないな。


「……それはダンジョンを照らす松明から火を貰えばよかっただろ」


 勇者は俺の反論にハッとした表情を浮かべる。

 こいつはまさか結構なバカなんじゃないだろうか?


「と、ともかく、絶望しました! それを今言いにきたんです! バットに襲われながらギリギリの体力で言いにきたんです、この服が苦労を物語っているでしょ!」


 それで穴だらけなのか。

 確かに苦労したんだろうなとは思う。


「で、そろそろ言いたいことは済んだか?」


「ハァ……ハァ……えぇ、ちょっとスッキリしました」


「ではかかってきたまえ」


 ようやくバトルだ、あれからどれほど強くなったかみせてもらおう。


「い、いえ、今日は文句を言いにきただけなんでこれで帰ります」


「それはできんぞ? それ」


 勇者の後ろを指で指す、この部屋を閉ざした扉は俺を倒さない限り開くことはない。


「えー、これは詰みましたか?」


 恐る恐る言ってくる勇者にゆっくりと歩を進める。


「せ、せめて痛くないよ――グヘァ!」


「やれやれ、全く成長しとらんではないか」


 またしても簡単に胴を貫かれた勇者を見て呆れてしまう。

 あれだけ言うから今度は松明は壊さないでおいた、ありがたく思ってほしい。


 そしてまた現れる棺、勇者をいれたそれは出口へ向かう。


「残念だが出口は――ハ?」


 出口に体当たりし、無理やり突き破った行ったそれに口が開いてしまう。


「あれの方が強い気がするな……」


 ポッカリ開いた穴に向かってそう呟いた。

 

 

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