魔王軍最強の俺が最初のダンジョンに派遣されたら勇者が詰んだ件〜何回やってもサタンが倒せない〜
茶部義晴
第1話 魔王軍最強の俺、派遣され勇者と対峙する
「サタンよ、始まりの街に勇者が現れた」
「はっ、左様でございますか」
俺、サタンは魔王軍でも最強の力を持つ悪魔だ。
前の玉座に座る魔王様は勇者が攻めてきた時のために俺を呼んだのだろう。
「ならば魔王城の最強の敵となり勇者を阻みましょう」
俺は偉大なる魔王様に跪き、魔王様を守る最大の壁になることを誓う。
頭に立派なニ本の角が生え、厳つい顔。
大きな体に鍛え上げられた筋肉に多くの魔法が使えて創造した魔法も数知れず、そしてなにより幾多の種族を纏め上げるこの圧倒的なオーラ。
人間により制圧されていた世界をすでに七割を手中に収めたその策略。
一対一ならば負けはしないと自負しているが、やはり魔王の器はこの者にこそ相応しいだろう。
「いや、お前にはこのダンジョンにて勇者を出迎えてもらいたい」
そう言って俺の前に出されたマップウインドウには、行き先のダンジョンが赤い丸で示されていた。
「魔王様、これは一体? 何かの間違いではないでしょうか」
俺はそれを見て驚愕した。
「いや、お前にはそこで勇者を倒してもらいたい」
「はい、ですがこれは勇者が通る一番最初のダンジョンではございませんか」
そう、示されているのは始まりの街に一番近いダンジョン。
恐らく勇者が一番最初に攻略にのりかかろうとするダンジョンである。
「何か問題でもあるのか?」
「そういうわけではありませんが、普通は最初のダンジョンには弱い魔物を配置するものでは?」
そう、そして段々と強くなった勇者を魔王城で対峙して勝利する……それでこそ格好がつくというもの。
「なぜそんなわざと負ける様な事をする?」
「それは――」
俺は魔王様に自分の美学を熱弁する。
しかし、魔王様には届いていない様で「は?」みたいな顔をされた。
「何故我が民に被害を出しながら勇者のレベルを上げなければならぬ」
ごもっともだ、ごもっとも過ぎて反論ができない。
しかし、勇者と魔王はこういうものではないのか?
「それにもし強くなった勇者に負けたらどうなる、死ぬぞ。死ぬのは嫌だ怖い」
ん? なんかオーラが少し弱くなった気がした。
もしかしたら最後のが全てじゃないのか。
「ともかく、早急に勇者を討つのが最も最善の策だ、頼んだぞ」
「わかりました……」
そして俺は最初のダンジョンに向かったのだが――。
「え? なんか強そうなんだけど……」
「よくぞ来た、勇者……よ?」
ダンジョンに潜むとすぐに勇者が来た、来たのは良いのだが――。
「なんだその装備は」
「え?」
なんなんだこれは。
頭部や脚部の防具はなく、胴を守るのもボロボロの皮一枚、あまつさえ武器が粗末な棍棒だと? ふざけるのも大概にしてほしい。
「その、なんだ、そのふざけた格好で俺と戦おうというのか?」
「え、えーと。なんかすみません、お金がなくて……」
若干十八の人間の男が頭を下げる。
ダンジョンという薄暗い洞窟でも輝きを放つ金色の髪、透き通った翡翠の瞳に幼くも凛々しい顔つきの男だ。
俺にとっては赤ん坊の年齢だが、人間という種族ではこれで立派な大人らしい。
しかし、その格好はままごとである。
呆れて睨み続けていると慌てて声を張り上げる勇者。
「だって仕方ないじゃないじゃないですか! 王様からは50Gしか貰えないし、装備も何も支給されない! 俺だって立派な装備で魔王討伐の旅に出たかったよ! でも50Gで何が買えますか? この棍棒買ったらもうすっからかんですよ! ……ハァ、ハァ……」
捲し立てる彼に少し圧倒される、これが勇者の圧というものか。
「この皮の防具も死に物狂いでスライムを狩ってお金を貯めて買ったんですよ! 何度死んだかわからないぐらいに必死で、というかなんですか街からでてすぐに四体も五体も同時に襲ってきて、卑怯じゃないですか! ……ハァ、ハァ……」
「そ、そうかそれはなんかすまなかった」
勇者も勇者で大変なんだな。
なんか可哀想になってきた、というかスライムに何度もやられたのかコイツは。
「全くどいつもこいつも反省してください! そして頑張ってようやくこのダンジョンのボスまでたどり着いたと思ったらこれだ。あなたはこう見えて実はちゃんと弱いんですよね!?」
流石にこの高貴な黒い十二枚の翼と逞しい体を見てスライムと同じぐらい弱いことはないのはわかるだろう。
「まあ、とにかくかかってこい。じゃないと話が進まんだろう」
「そ、そうですね。ヤアァァァァァ!」
奇声をあげて棍棒を振り上げた勇者が襲ってくる。
が、なんなんだこの遅さは、走りすらもぎこちないでは無いか。
「くらえぇぇぇ!」
棍棒が振り下ろされる。
避けることも余裕だが……まあ力がどれくらいか確かめるか。
「え?」
勇者の腑抜けた声、そして棍棒のグシャっと割れた音がダンジョンに響く。
防御した腕には木のささくれすらも皮膚を通らず、もちろん痛みは全くない。
弱い、弱すぎる……。
「あ、あのー……見逃しては」
「くれんな」
拳で皮で守られた胴を突く。
「――グヘァ!」
だいぶ抑えたつもりだったが、いともたやすく防具毎体を貫く。
手が血の粘り気と変な温もりに包まれ不快だ。
引き抜くと絶命した勇者が当然そのまま倒れる。
「なんだ?」
刹那勇者の側に現れる棺に困惑する。
その棺は開いたかと思いきや、細く白い手が伸びて勇者の遺体を掴んでそれに収納する。
ミミックか? だが違う。
その棺は足もなく引きずる様に俺の前から立ち去っていく。
「気持ち悪ッ」
誰もいなくなった部屋でポツリと呟いた。
⭐︎以下あとがきです。⭐︎
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