ホームにて 彼の言葉

月這山中

 

「復活編あるじゃん。火の鳥の。脳の回路に障害が残って、人間がモノに見える主人公。目の前の生きた人間が、無機物やグズグズの肉塊に見えたりする話。」


「まあ、なんだ。そういうのとはちょっと違うけど。」


「そこまで重症でもないんだ。知り合い程度の相手だと見分け付かないくらいで。」


「いつごろからかは解らないけど、やっぱり……生まれつきだからしょうがない。」


「無茶を言うようだけど、気にしないで欲しい。俺自身だって、普段気にしないようにしている。忘れている時だってある。握手やハグをせがまれても我慢して応じることができる。話がわかる相手なら楽しんで話すこともあるし。恋だってできる。……その後のあれこれを考えたら、発展しないけど。」


「でも……ほら、ケンカした奴と、仲直りとか、許したことって生涯で無くてさ。どうしても、分かり合えないって思い込んで。幾ら誠意見せられても、どうせこの糞……って自分でも驚くほど冷たくなって。」


「相手が動かなくなるまでじゃないと許せなくてさ。」


「親にだって相談しなかった。話さずに済むならそれで良かったけど、でも、これからを考えると辛いんだ。」


「まだ君とは話し足りない。この目、これがあるから、声と文字と、写真と絵だけが俺のよりどころだった。ワンステップがないと世界とかかわれないんだ。」


「今まで、それをつかって君が、伝えてくれたことは、小気味良くて、心地よかった。君ならどうでもいいと笑ってくれるかも。君になら話せる気がした。だからこうして……」


「頼む。この告白を聞いたら、さっさと忘れてくれ。




人が糞のつまった袋にしか見えないんだ」




 終

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