第68話

「ここの管理はね、この保育園がやってんだよ」

 ホースの男は、そう言いながら手元のホースを伸ばした。水やり作業はまだ続くようだ。


「フレンチレストランの菜園と聞いているんですが」

 おずおずと神楽が訊くと、男はさあと首を傾げた。

「いろんな人が見学やらなんやらで来るからね。そんなかにレストランから来た人もいるかもしれないよ」


 保育園の場所を聞き、行ってみることにした。何かわかるかもしれない。


 保育園は、畑をしばらく進んだ先の住宅街の中にあった。

 といっても、こんもりとした木々に覆われた神社の中だ。神社が経営しているのかもしれない。


 鳥居のある入口の横に、保育園の敷地への通路があった。一旦、車を神社側の空き地に止め、戻る。


 通路まで来たとき、子どもたちの明るい歌声が聞こえてきた。


 園庭の先に、プレハブの簡易な建物が見える。

 子どもたちのいる保育室の横に、事務室が見えた。窓の黄色いカーテンのすき間から、人の姿が見える。

 足を向けると、入口のドアが開き、若い女性が出てきた。


 女性は穏やかな表情で、会釈を寄越してきた。

「園見学ですか?」


 神楽は瀬谷と顔を見合わせた。

 父兄と勘違いされたようだ。


 挨拶をし、菜園について話を聞きたいと言うと、女性は軽やかに身を翻し、事務室に戻っていった。後ろ姿が、高校生みたいだ。

「あんな先生なら、この園に入りたいよ」

 そう言った瀬谷に、神楽は呆れた。

「入りたいじゃなくて、子どもを入れたいでしょ?」

「あ、そっか」

 瀬谷がおどけて笑ったとき、事務室から初老の女性が出てきた。



 

 

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神楽(かぐら)はさくらを容赦しない! popurinn @popurinn

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