第65話

 犠牲者たちのつながりを見つける。

 

 つながりが見つかれば、尾美義昭、羽根木俊太、厚木莉久あつぎりくの三人が狙われた理由がわかるかもしれない。

 動機が見つかれば、そこから津村さくらにたどり着けるかもしれない。


「かもしれない、ばかりなんだけどね」

 神楽は、助手席にいる瀬谷に愚痴った。

 車は今、首都高を走っている。そろそろ三郷JCTだ。そこからは常磐自動車道に入る。


「具同さんは、結局、昔の津村さくらしか知らないし」

「津村さくらが男だったとはなー」

 瀬谷はあくびを噛み殺している。休日に7時半に迎えに行ったのだから、無理もない。


 それでも、瀬谷は上機嫌だった。

 神楽が借りたレンタカーに乗り込んできたとき、あまりに楽しげだから、

「水戸に行ってみたかったの?」

と訊いたら、

「おまえって、ほんと、男心がわかんないやつだなあ」

と、拗ねてしまった。


 今は、機嫌を戻しているが、朝イチのギクシャクした雰囲気は、まだ完全に払拭できていない。

 

 難しいな、男女って。

 神楽はそう思わずにはいられない。

 

 何を隠そう、神楽には、ちゃんとした彼がいたことがない。

 学生の頃、ほんの数ヶ月、なりゆきで付き合った相手がいるが、そして、人並みに経験もしたが、正直、苦い思い出しかない。

 

 その相手、人の彼だったのだ。しかも、割合親しい友人の。

 

 奪い取ったわけじゃない。

 知らなかったのだ。挙げ句、一時期、女友達から総スカンを食らった。

 

 あのとき、誰にも言えない怒りを、相手と自分に対しての怒りを、神楽は柔道の稽古で紛らわせた。

 あれほど集中できたのは、後にも先にもあのときがいちばんだ。

 

 神楽は、瀬谷の気持ちが嬉しいし、自分の気持ちの変化にも気づいている。

 だが、思い切り瀬谷に飛び込んでいけないのは、元カノのめぐみの存在があるからだ。


 彼女は、いまだ、瀬谷に未練がある。

 別れたと瀬谷は思っているが、男の別れ話を女がどう解釈するのか、神楽は学生時代に知ったのだ。


「恵によるとな」

 瀬谷の声に、神楽は我に返った。

 ちょうど恵のことを考えていた神楽は、どきりとする。


「厚木莉久といっしょに水戸のフレンチシェフの菜園へ行ったのは、シェフに強く勧められたかららしいんだ」

 

 水戸つながりを探ろうとして、厚木莉久が水戸に関係したことはなかったかと、恵に話を聞いてくれたタツヤに質問してもらったところ、フレンチシェフの線が浮かび上がったのだ。

 それで、恵にもう一度話を聞こうと思うと話すと、瀬谷が聞いてくれると言い出した。

 反対するのも、何かわだかまっていると思われそうで、そのまま頼んだ。


「これで、犠牲者全員が水戸に関りがあるとはわかったが、ただな、厚木莉久の場合、深い意味はなさそうだ」

 瀬谷は、続ける。

「たまたま日本ではめずらしい品種の野菜の話になって、厚木莉久が見てみたいと言い出し、それなら見にいらっしゃいとすすめられたらしい」

「そうなんだ」

 神楽と前を向いたまま、応える。


 瀬谷の口調には、恵にたいする何のこだわりもなさそうだった。

「正直、犠牲者全員が水戸と関りがあるとはいっても、厚木莉久の場合は、ただの偶然としか思えない」

 瀬谷の言うとおりかもしれない。だが神楽は、水戸に行き、フレンチレストランのシェフの菜園に行く必要があると思った。

 何か、引っ掛かるのだ。


「恵さんは」

 前を向いたまま、神楽は訊く。


「水戸での厚木莉久について、何か言ってなかった?」

「何かって?」

「わからないけど――いつもと様子が違うとか」

 瀬谷は首を振る。


「特にはなあ。あ、恵によると、シェフは厚木莉久と前から親しかったみたいだよ」

「シェフとお客の関係以上に?」

「そこまではわかんねえよ」

 だが、女だったら、『親しかった』と言うとき、その意味を区別して口に出すはずだ。特に、恵のようなタイプは男女関係に敏感なはず。


 そう思ったとき、車は水戸のインターに近づこうとしていた。


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