第63話

 津村さくらは男性だった。


 神楽の胸に、この事実はすとんと落ちてきた。


 レイプの被害者ながら、組み伏せられた相手を刺すことができた。


 強盗に刺されそうになりながらも反撃し、強盗を殺した。


 どの事実も、男性なら納得できる。

 もちろん、身体の小さな女性でも、特別な訓練を受けていれば可能だろう。

 例えば、自分のように。

 だが、常識的に考えれば、津村さくらがやったことは男性のほうが容易だ。


「具同さんは、最初から津村さくらが男性だと知ってたんですね」

 懸命に怒りを抑えて、神楽は言った。


「待って、説明させて。あたしの知ってる亮平と津村さくらが同一人物だと気づいたのは、カグに調査を頼んだあとなのよ」

「そんな。だって、その亮平―津村さくらは、具同さんの―その―恋人だった人の子どもなんでしょ?」

「だから、説明させてって言ってるじゃない!」


 具同はうっと咳き込んだ。


 こんな話は、今の具同には体力的に酷かもしれない。

 だが、騙されていたと信じる神楽には、同情心は湧いてこなかった。


「あのね――」 

 具同は、ベッド脇のサイドテーブルから水の入ったペットボトルを取り、眉間に皺を寄せながら飲んだ。


「タツヤからコンビニ強盗の話を聞いたときにね、ただ、興味本位で素人探偵ごっこをしていたの。で、津村さくらがヤバいって思って、カグに相談に行ったわけ」

 疑いの目を向ける。


「ほんとうよ、誓って、津村さくらが亮平と同一人物だなんて知らなかった」

「じゃ、いつわかったんですか」

「真夜中」


「は?」

 全く、この期に及んでからかっているのか。


「津村さくらの写真を見たときは、全然気づかなかったの。亮平が小さいとき何度か会ったたけだから。でも、ある真夜中、ふっと津村さくらの顔が亮平の顔とつながったのよ」

「いつですか、それは」

「カグと津村さくらのアパートに行ったときは、まだ。帰ってきて、しばらくしてからよ」


「そのとき教えてくれるべきじゃありませんか? わたしはずっと、女性を追いかけてたんですよ」


 具同は頭を垂れた。

「ごめんなさい。でも、多分、亮平はもう男じゃないと思うの」

「なんでそんなことがわかるんです?

もしかして、具同さん、津村さくらを探し始めてから会ったんですか!」

 だとしたら許せない。

 こっちは必死で行方を追っているのに。


「そんなに怒らないで。頭がガンガンしてくるわ」

「だって……」


 余命わずかかもしれない相手なのだ。

 

 神楽は声を落とした。

「本気で津村さくらの次の犯行を阻止したいと思うなら、知っていることを全部話してくれないと、これ以上捜査なんかできません」

「そうよね」

「その亮平という人とは、いつ会ったのが最後なんですか?」


「ふう……」

 ため息をついた具同は、心底疲れて見えた。

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