第53話
「できたぞー!」
能天気な掛け声とともに、オムライスが運ばれてきた。
「俺特製のジャンボオムライス!」
その名の通り、大きかった。通常食べるオムライスの倍はありそうだ。
「料理なんかできるんだ」
この部屋に連れて来られてからの気まずさは吹っ飛んで、神楽は背中のハンドバッグ代わりにしているリュックサックを床に置くと、ケチャップ色のご飯に顔を近づけた。
何を隠そう、神楽はオムライスが大好物だ。
「いい匂い」
「だろ?」
瀬谷にスプーンを手渡されて、いただきます!とかぶりついた。知らず知らず、瀬谷のベッドに腰掛けて、皿は膝の上。
「おいしい!」
「だろ?」
横に並んだ瀬谷も食べ始めた。
「すごいじゃない。こんなのできるなんて」
神楽だって一人暮らしは長いが、まともな料理は一つとしてできない。もぐもぐと口を動かしながら、神楽は素直に絶賛した。実際、かなりイケると思う。
「これしかできないけどな」
「そうなの?」
「ほかは、まったく。味噌汁も無理」
「よかった。偶然、あたしの大好物と瀬谷の得意料理がマッチングして」
普通の女子なら食べ残す量だろうが、神楽は平気だ。かなり大食いのほうだと自分でも思う。
「偶然じゃねえよ」
「へ?」
瞬間、何を言われたのかわからなかった。
口へ持っていこうとしたスプーンの動きが止まってしまう。
「食べろよ」
「――今、偶然じゃないって言わなかった?」
「言った」
どういうこと? そう訊こうとしたとき、瀬谷がこちらへ顔を向けたものだから、顔がぶつかりそうになってしまった。
慌ててスプーンを落としてしまう。
「なんだよ、行儀悪いな」
「ごめん」
俯いて床からスプーンを拾ってくれた瀬谷は、
「いい加減気づけよ」
と、ぶっきらぼうに言い、そのまま食べ始めた。
「気づけよって……」
まさか、ほんとに?
心臓がバクンと跳ねた。
瀬谷に好意を持たれてた?
そんなこと信じられるわけがない。だって、瀬谷と自分は、ただの友達として馬鹿を言い合ってきた仲だ。
聞き違いかもしれない。そうじゃなければ、別の意味かも。
心なしかスプーンに掬うご飯の量が減ってしまった。のろのろと、食べる。横で、瀬谷は怒ったようにオムライスを口に運んでいる。
「神楽」
最後のひと口になったとき、横顔のまま、瀬谷が言った。
「な、なに?」
「俺さ」
こちらを向いた瀬田は、いままで見たこのない真剣な目をしている。
そのとき、神楽のリュックサックの中でスマホが鳴った。
「出ろよ」
固まっている神楽に、瀬谷がせっついた。
だが、手が伸びない。
「出ろってば。署からの電話だったらどうするんだよ」
ようやくリュックサックからスマホを取り出した。
瀬谷の予想通り、電話は署の佐々からだった。
佐々とともに当たっている、中区末広町のマンションで見つかった変死体について新しい事実が判明したという。
「身元が割れたんだ」
佐々は興奮気味だ。変死体はかなり古いもので、身元はわかっていなかった。マンションの所有者は別にいたからだ。所有者は心当たりはないと言い、身元特定が最優先で捜査がすすめられるところだった。
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