第48話
厚木莉久から調べるか、それとも、雨宮林穂から?
瀬谷が言ったように、もし、津村さくらに殺された人物たちが、動物つながりがあるとしたら、厚木莉久から何か突破口が開けるかもしれない。
だが、雨宮林穂は消されたばかりだ。
そう。単純な溺死事故とは思えない。
もしかすると、早急に雨宮の事故当時の足取りを追えば、津村さくらの影が見つかるかもしれない。
どうしたらいい?
時間がない。
そう思う。一度、津村さくらに接触してから、こちらの動きを見張られているのかもしれない。だからこそ、雨宮は具同に警告してきたのだろう。
神楽は腕の時計を見た。
そろそろ九時になろうとしている。いい加減署に戻り、書類作成をしなければ。
神楽はスマホをバッグから取り出し、瀬谷に電話をかけた。厚木莉久を調べると言ったとき、俺も行くよと言ってくれた。今の状況でどう動くべきか、何かヒントをくれるかもしれない。
二回のコールのあと、瀬谷は電話に出た。まだ新宿署にいるようだ。
雨宮林穂が溺死した事実を述べると、さすがに瀬田も絶句してしまった。
――そいつが死んだのも、津村さくらの仕業だと思うのか?
声をひそめて、瀬谷が訊いてきた。
――わからない。でも、調べてみないと。
そして神楽は、厚木莉久と雨宮とどちらを優先すべきか迷っていると正直に告げた。警察が扱う正式な事件であれば、捜査本部が設けられて会議が開かれるはずだ。津村さくらには、連続殺人犯の疑いがあるのだから。
だが、いままでのところ、事件にできる証拠がない。
――うーん、そうだなあ。
瀬谷も決めかねている。
と、
「――神楽さん」
タツヤに声をかけられて、神楽ははっと顔を上げた。
「あの、ちょっといいですか」
「え、何?」
神楽は瀬谷に断りを入れて、タツヤに向き直った。
「僕、手伝いましょうか」
「手伝うって?」
「雨宮と厚木莉久を調べなきゃならないんですよね?」
瀬谷との会話を聞いていたのだ。
「僕、厚木莉久について調べてきますよ」
「へ?」
「一刻を争う事態だと思うんです。僕でお役に立つなら」
驚いたせいで、神楽はタツヤの顔をじっと見つめてしまった。神楽に見つめられて、タツヤははにかんだように微笑む。
厚木莉久の実家や、そこから知り得る彼女の知り合いに当たってみようと思っていた。
おそらく、女性が多いだろう。
タツヤなら、女性が喜んで話をしてくれるかもしれない。タツヤに時間を取られて嫌がる女性は数少ないと思う。
「い、いいの?」
「早くルリさんを安心させたいんです。なんか、時間があまりないような気がして」
タツヤは具同を、ときどきこうして店の名で呼ぶ。
大きく頷き、神楽は瀬谷との会話に戻った。
ルリタテハのタツヤに、厚木莉久の調査を頼む旨を伝える。
「じゃ、こっちは雨宮だな」
瀬谷は即答した。
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