第45話
頭がガンガンする。
こめかみに釘を打たれてる感じ。
神楽は鎮痛剤を飲み込むと、大きくため息をついた。
完全な二日酔い。瀬谷にすすめられるまま、調子に乗って飲み過ぎてしまった。
尾美のことを調べた後に入った居酒屋を、どんなふうに出たのか全く思い出せない。
新宿駅前の人ごみの中で、大笑いしていた記憶はぼんやりある。だが、その前後、そもそも飲み代はいくらだったのか、ちゃんと払ったのか――。
何も問題を起こさなくてよかった。
神楽は胸を撫で下ろす。
自分は警察官なのだ。酔っていたのは言い訳にならない。
瀬谷がいたから油断しちゃったな。
正直、そう思う。
気楽な同期で、昔からの知り合い――。
ダルさを振り切って、身支度を整えた。日焼け止めクリームを塗っただけで、鏡から離れようとしたとき、
「油断したかったんじゃない?」
そういう自分の声が聞こえた気がして、神楽はバタンと洗面所のドアを閉めた。
そうは思っても、踏ん切りがつかない。
雨宮は津村さくらが何をしたかを知っている。それを探るなと言っている。
そんな雨宮という男は、昔、具同と深い間柄だったのだ。
津村さくらを知らないという具同の言葉を信じるのなら、雨宮は、具同と別れたあと、津村さくらを知ったのだろう。
雨宮は津村さくらと。いつからどこでどんな関係を持ち、なぜ、殺人を容認しているのか。
「おい、時島!」
怒鳴られて、神楽は慌てて顔を上げた。
朝の捜査会議の最中だ。
神楽を見据えている警部補の目が苛立っている。
「おまえと
今朝、中区末広町のマンションの一室で見つかった変死体について調べが始まっている。事件性があるかないかを、神楽と佐々で精査しなければならない。
パトカーに乗り込み、運転席の佐々と段取りを話し合った。佐々とは何度も組んでいる。二年先輩の、真面目で、どちらかというと融通の利かないタイプの刑事だが、信頼は置ける。
マンションに着いた頃には、神楽の頭からははすっかり雨宮林穂のことは抜けていた。当然のことながら、目の前の事件のほうが大切だ。
夜の八時。ようやく職務から今日のところは開放されたとき、神楽はタツヤからの電話で、時計の針が巻き戻ったかのような錯覚を覚えた。
神楽はプライベートで使用しているスマホを耳に当てながら、どこか間の抜けた声を出していた。
「神楽さん、何度も電話したんですよ」
タツヤの声は、尖っていた。
「ごめん、ごめん。今日は忙しくて」
「電話をしたのは――悪い知らせが二つあって」
「悪い知らせ?」
瞬間、息を止めてしまった。
もしや、具同が――。
「具同さんになんかあったの?」
「まず、そっちから話します」
タツヤは大きく息を吐いてから、話し始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます