第44話
安いが混雑していない店を探すのは、結構手間がかかった。
結局、駅前をさすらい歩き、南口に行き着いてしまい、ようやく、安いが静かな店を見つけた。
「ビールでいいよな?」
ほんとうは、もっと強いアルコールを欲していたが、そのままにした。酔っても、尾美や羽根木俊太の無念は消えやしない。
はじめのおつまみが来るまで、神楽はタツヤにラインをした。今日、知り得たことを、具同に伝えと欲しいとしたためた。
タツヤからの返信は、ジョッキを半分ほど飲んだときだった。
タツヤからのラインには、雨宮林穂についての詳細が書かれていた。詳細といっても、タツヤが店の古い常連から聞いた話で、情報の内容は新しいとは言えないとのことだった。
雨宮林穂は、具同が若い頃たしなんでいたというボクシングジムの先輩だった。そのつながりから、具同が働いていた店に顔を出していたという。雨宮はプロはだしに強い男で、裏社会で用心棒的な仕事をもらって生計を立てていたらしい。
具同と深い仲だったのは誰もが知っていたことで、付き合いは具同がジムに通うのをやめてからも続いていたようだ。当時を知る店の常連によると、具同はかなり雨宮に入れ込んでいたようだ。雨宮は見た目こそいかついが、なかなか人をそらさない愛嬌のある男だったようで、いつも毛むくじゃらの小型犬を抱いている愛犬家でもあったという。
ここまでの情報を、タツヤは見た目からは想像できない簡潔な文章で送って来てくれた。
津村さくらを探し回るな、危ないことに首を突っ込むなと言ってきたという雨宮林穂。
どこで津村さくらとつながっているのか。
「おい、どうした」
スマホに顔を埋めている神楽の前に、瀬谷が運ばれて来た焼き鳥を置いた。
「あ、ごめん」
顔を上げた途端、焼き鳥の香ばしい香りが立ち上がる。
「なんか、情報なのか?」
ここまで協力してくれた瀬田に、詳細を話さないわけにはいかない。
焼き鳥を頬張りながら、タツヤからのラインの内容を話した。
「動物つながりだな」
瀬谷はぐいっとビールを飲み干してから、言った。
「動物?」
「そうだよ。明らかじゃないか。尾美も羽根木俊太もその雨宮ってのも、みんな動物が好きなんだ」
そういえば、そうだ。
「おまえ、こんなシンプルな道筋も見えなくて、ほんとに刑事か?」
ムッときた。たしかに瀬谷の言うとおりだが、動物好きでつながっているとして、正当防衛のふりをして殺されるなんて有り得ない。動物好きと殺人。すごく距離がある。
「たまたまかもしれないじゃない」
そうは思えないが、神楽は言ってみた。
「いんや、きっとそれでつながってる。どう考えても、こう犬だの猫だのが出てくるのはおかしいよ」
ふと、津村さくらを追いかけたとき、公園で見かけた姿が蘇った。
少年の子犬をかわいがっていた、津村さくら。
「でも、まだ結論は出せない。厚木莉久を調べてからじゃなきゃ」
「そうだな。それに、動物つながりだとしても、なんで殺される羽目になったのか、そこを知る必要がある」
「厚木莉久の実家へ行ってみないと」
口元についたビールの泡を拭いながら、神楽の思考は、厚木莉久の実家を訪ねる段取りに向いた。
日々の業務が決して暇というわけではない。その上、このところ、羽根木俊太を調べるために休日を費やしてしまったせいで、自宅の部屋はぐちゃぐちゃだ。掃除や洗濯が溜まっている。
いや、まず、調べるべきは雨宮林穂だ。具同に直接問い質したい。
考えが散らばったせいで、瀬谷の声が聞こえなかった。
「え、何?」
「俺も行くよ」
酔いのせいだ。じっと見つめられて、神楽は無理にでもそう思おうとした。
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