第42話

「やっぱりおまえがコンビニ強盗をそそのかしたんだな!」  

  

 瀬田が怒鳴り声を上げると、通行人が怪訝な表情で振り返る。


「ち、違いますよ! そそのかしたなんて人聞きの悪い――」

「知ってたんだろ! 尾美がコンビニ強盗をやると」

「いや、まさか、ほんとにやるとは」

「てめえ、はっきり言え! そのふざけた帽子を脱げ!」 

「帽子は関係ないじゃないすか」

と、ブツブツ言いながらもガンは帽子を取った。


「尾美は――」

 瀬田に代わって神楽が口を開いた。

「調べたんだけどね、新宿は尾美のテリトリーじゃないのよ。どうして尾美が新宿で犯行に及んだのか、それが不思議でならないの。だけど、あなたのことを大森で聞いてきた。それで新宿とのつながりがわかったんだけど」

「新宿で知り会ったんだ」

「おまえが仕事があるとかなんとか言って、ここに誘ったんじゃないのか?」

 瀬田がガンの首筋を掴むそぶりをしてみせる。

「違いますよ!」

「正直に言ったほうがいいぞ。おまえを調べればドハッと埃が出てきそうだ。さしずめさっき話し込んでいたオジサンとはどういう関係だ?」

「あ、あんたら、警察じゃないだろうな」

 

「違うわよ」

 神楽は即座に否定したが、ガンが信じたかどうか。

 だが、もし職務としてガンに質問をしていたなら、瀬田だって、こんな乱暴な言葉遣いはしない。


「あなたを糾弾したいわけじゃないの。ただわたしたちは、貸しのある尾美があっけなく死んでしまったいきさつを知りたいだけなの」

「運が悪かったとしか言えねえけど」

「思い出して話してくれない? 尾美と知り会ったとき、尾美がコンビニ強盗をするかもしれないと気付いたときのこと」

「仕事を探してるやつがいるって、マシロが言ってきて」

「マシロってのは誰だ」 

 瀬田が訊く。

「俺とおんなじようなことして食いつないでるやつ。昔、同じ店で働いたことがある。大森辺りで人を集めてるやつなんだが、久々に電話をかけてきたんだ」

「そいつが尾美を紹介してきた?」

 ガンは頷いた。


「なんて紹介してきたわけ?」

 神楽の問いに、ガンは面倒臭そうに答えた。

「どうにもこうにも金を欲しがってるやつがいる。ヤバいことでもなんでもいいからやるって言ってると」

「で、コンビニ強盗をさせたわけ?」

 聞いていると腹が立ってくる。

「勘弁してよ。そんなことさせるわけないでしょ? 大体ね、コンビニ強盗ほど割に合わない犯罪はないんだよ。レジにはいくらも入ってないし、中にも外にもバッチリ監視カメラがあるでしょ」


 ガンの言い分にも一理あった。

 たしかに、どうせやらせるなら、もっと確実に金銭がある場所を狙わせるだろう。

 たとえば、独居老人の家などだ。


「俺がやらせたのは、ちょっとした連絡係」

 そう言ってから、

「警察じゃないんなら、あんまり追及しないでよ」

と、うそぶいた。


「そのマシロってのは、尾美とは親しかったのか?」

 大森辺りで差配師をしているなら、考えられる。


 すると、ガンが目の前を通ったマッチョなお兄さんに流し目を送りながら、言った。

「尾美とは知り会ったばかりだって言ってたね。知らない女から、尾美に新宿の仕事をさせろって言われたって」

 神楽は息をのんだ。横で瀬田も驚いている。


 

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