第39話
「新宿でガンと呼ばれていた差配師か」
動物病院を出ると、大きく伸びをしながら瀬谷が呟いた。
「探す当てはありそう?」
「なんとかなると思うよ。情報屋に知り合いがいないこともない」
そう言って、瀬谷はポケットからスマホを取り上げた。
「あ、俺です、今、だいじょうぶですか」
心持ち顔を上げて、瀬谷は話を続ける。早速、ガンと呼ばれる手配師を知っていそうな人物に連絡をしているようだ。
たしかに、瀬谷は行動が早い。そんな瀬田に、グズグズしていると思われるのは当然かもしれない。
電話が終わると、瀬谷はにっこりと笑った。
「ガンってやつ、どこにいるかわかったよ」
「もう?」
「広いようで狭いんだよ、新宿は」
蛇の道は蛇なんだろう。後ろ暗い連中が集まる場所は、たいてい決まっている。それは、捜査をしているとき、神楽も感じるところだ。といって、こんなに早く居場所が突き止められるとは思っていなかったが。
「行くだろ?」
「これから?」
「決まってるでしょ。まだ八時前だぜ」
「まあ、そうだけど」
「新宿二丁目の花園神社の近くにあるバーにいるらしい」
瀬谷は歩き出し、神楽も慌てて足をすすめる。
「バーの名前は?」
「お、鳥串!」
「鳥串って名前なの?」
「違う、違う。腹ごしらえしていかなきゃなと思って」
瀬谷の視線の先には、焼き鳥屋が見えた。チェーン展開している安い居酒屋だ。
「腹、空いただろ?」
「う、うん」
なんだか瀬谷のペースに載せられっぱなしでおもしろくない。
酎ハイを勢いよく飲んで、焼き鳥の串を瞬く間に十本は食べて、そして瀬谷はようやく人心地がついたようだった。
店の中は仕事帰りらしきスーツ姿の男性客で溢れている。
「相変わらずよく食べるわね」
自分も七本目の串を頬張りながら、神楽は瀬谷に顔を向けた。二本目のモモだ。瀬谷もモモが好きなようだが、躊躇せず手を伸ばす。
「おまえだって、結構食べてるよ」
「食べとかないと、ガンっていうやつに会ったあと、また次の展開があるかもしれないでしょ」
言ったものの、それだけは勘弁だった。津村さくらを早く追い詰めたいという焦りはあるが、明日は朝から会議がある。その書類も今夜中にそろえなければならない。
「だが、なんだな」
瀬谷が酎ハイを飲み干す。
「ちょっと気になるな」
「何が?」
「これから行く場所」
「どうして?」
「神楽の叔父さんはルリタテハのオーナーだろ? そしてガンがいるというのも、新宿二丁目」
「うん」
神楽も実はそれが気になっていた。
ガンがいるのは、ルリタテハと同じく男性客のみ相手にする店かもしれない。案外な共通点だ。
「尾美や羽根木俊太に、そういった嗜好はあるのかな」
「ないと思うけど」
神楽が調べた中で、二人がそういった嗜好の持ち主だったと思えるエピソードはなかった。
もし、二人にそういった嗜好の共通点があったとしても、津村さくらに
「行くか、そろそろ」
瀬谷がジョッキを置き、神楽も残りの酎ハイを飲み干した。
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