第36話

 大森の動物病院の鹿野院長という人物に早急に連絡を取らなくては。

 

 翌日、昼休みを使って鹿野動物病院へ電話をかけようと思っていたものの、会議が長引いて時間が取れなかった。

 

 食堂が空調設備で一時に閉まっていたため、神楽はコンビニに昼食を買いに行った。

 瀬谷から電話がかかってきたのは、レジの列に並んでいるときだった。


「よう、元気か?」


 いつもの瀬谷の挨拶だった。思い出したように、瀬谷はこうして連絡をくれる。弁当を買ったら、鹿野動物病院に電話を入れるつもりだった神楽は、今日は瀬谷とのたわいないおしゃべりを楽しむ気がなかったが、無下に電話を切るのもためらわれた。

 林警部補を紹介してくれたのは瀬谷だ。


 神楽は、ふたたび林警部補と連絡を取った旨を伝えた。

「要するに、尾美ってやつの身辺を、もう一度探ってみようってことか」

 これまで知り得たおおまかな情報を話すと、瀬谷は興味深そうな返事をくれた。同じ警察官として、疑問点を洗い直す神楽の考えがわかるのだろう。


「そうなのよ。津村さくらに関係して死亡した人たちに、何かつながりがあるんじゃないかと思って」

「どの事件も、津村さくらが仕組んだと踏んでるんだな」

「そう。まだ、なんの証拠もないけど」

「気が長すぎるんじゃないか?」

 瀬谷が言ったとき、ちょうど神楽はレジ前に来た。


「え、どういうこと?」

と、返しながら、スマホで決済を終える。

 レシートはいらないと店員に告げてから、スマホを持ち直した。


「気が長いって、今、言ったよね?」

 瀬谷とは、飾りのない言葉を使い合える。同期で友人だからこそだ。瀬田の元カノの恵が疑ったような関係では決して、ない。


「だってそうだろ。もし神楽が推測しているとおりなら、今頃、津村さくらは次の犯行の準備をしてるかもしれない。グズグズしてていいのかよ」

「グズグズしてるわけじゃないけど」

 瀬谷の言うとおりなのだ。だが、一度接触できたものの、あれ以来、津村さくらの行方は杳としてわからない。

 とりあえず今できることは、さくらとの接触で死んだ人々同士の接点を見つけることなのだ。

 

 今日にでも鹿野動物病院へ行き、院長を話をしてみるつもりだと告げる。


「大森か」

「そう。尾美が生前暮らしていたアパートの近くなの」

「大森なら」

「地縁か何かあるわけ?」

「いや、そうじゃない。新宿から遠くないなと思ってさ」

「なんで?」

「俺も行くよ」

「え」

 弁当が売り切れだったため、仕方なく買った菓子パンのビニール袋を開けながら、神楽は訊き返した。


「なんで来るわけ?」

「なんかさあ、まどろっこしいんだよ」

「どういうことよ」

「一度にもうちょっと仕入れる情報量を増やすべきだと思ってさ。俺が行けば、もう少し早く片付く」

「そうかなあ」

 指摘されたことにはムッとしたが、瀬谷の言うことにも一理ある。


「それにさ、刑事は組んで行動すべきだからな」

 結局、夕方、大森駅前で待ち合せることになった。

 

 


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