第29話
集会所の場所はすぐにわかった。おばあさんが教えてくれたとおりに真っすぐ進むと、人の笑い声が道に届いていたからだ。
集会所といっても、村の公共施設ではなく、個人宅を開放している様子だった。道にはみ出して、花を語ろうと書かれた折り畳み式の置き型看板が見える。
近づいて、そっと覗いてみた。畳敷きの十畳ほどの部屋に、数人が集まっていた。何やら手を動かしながら雑談をしている。
「どうぞ」
後ろを振り返った初老の女性に声をかけられた。
「誰でも参加できるんですよー」
その横のおばさんも、明るく誘ってくれる。
彼女たちの指先には、乾燥した草花が握られている。ドライフラワーをまとめているようだ。
「――あの、沼入さんはいらっしゃいますか」
すると、おばさんたちと離れて作業をしていた男性が顔を上げた。
「お取込み中におじゃまして申し訳ありません」
突然の闖入者であるにもかかわらず、沼入氏は気さくに表へ出てきてくれた。
「いやあ、庭の花を見学したい方は毎日のようにいらっしゃいますから」
どうやら訪問者には慣れているようだ。
神楽は持参した手土産を差し出し、名前を名乗ってから事情を説明した。沼入浩信という人物を知った理由、そして彼が羽根木俊太のお骨を持ち帰ったこと。
明るい陽射しの中で、沼入氏の表情が曇った。
「沼入浩信は従弟です」
やはり、つながりがあった。探し出す相手が帰ったのが、小さな村だったのが幸いした。大きな街だったらこんなに簡単に近親者を見つけられなかっただろう。
「その事情なら知っています」
沼入氏は続けた。
「その死んだ青年は、わたしたちの親族とは血縁はないんですよ。浩信が若い頃に知り合った女性の息子だったらしくて」
「では、お墓は」
「わたしら親族の墓には入ってません。たしか、新しい墓を建てたんじゃなかったかな」
そして沼入氏は、
「あとは本人に直接聞いてください」
と言ってから、腕の時計を見た。
「あと少しで集会が終わります。そのときでよければ、浩信に連絡してあげますよ」
「ありがとうございます。助かります」
道端にある自動販売機でコーヒーを買い、飲みながら時間を潰していると、ほどなくして沼入氏がやって来た。
スマホを手にしている。早速電話をかけてくれた。
「ああ、俺だよ」
従弟らしい親しみで会話が始まった。
少し離れて、電話が終わるのを待つ。
「わかった。伝えるよ」
会話が終わり、沼入氏は神楽へ顔を向けた。
「午後なら話ができるそうだけど」
「ありがとうございます。それで結構です」
午後にふたたび沼入氏の自宅を訪ねることになった。それから従弟の家に案内してくれるという。
「申し訳ありません、お手数をおかけします」
「構いません。定年後で時間はありますから」
沼入氏は気さくに返してくれた。
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